最新記事

イスラエル

ネタニヤフのやりたい放題──イスラエルの「司法の独立」を弱体化する「改悪」に国際社会はチクリと「口撃」

SABOTAGING DEMOCRACY

2023年3月5日(日)12時34分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
ネタニヤフ首相

RONEN ZVULUNーREUTERS

<連立政権を組む極右勢力と共に反民主主義の姿勢を強める、ネタニヤフ首相。世界に広がるポピュリズム的強権体制に加担し、「悪例」を提示するだけ>

世界に広がるポピュリズム的強権体制に、また1つ新しい事例が加わった。イスラエルのネタニヤフ首相は司法の独立性を弱める改革に着手し、連立政権を組む極右勢力と共に反民主主義の姿勢を強めている。

イスラエルで民主主義が損なわれるのは今に始まったことではない。残虐なパレスチナ自治区占領は、根本的に民主主義の価値観とは相いれない。しかも、この国では権力の「チェック・アンド・バランス」が弱い。

正式な憲法はなく、国会も一院制。大統領は立法に対する拒否権を持たず、行政府が完全に国会を支配している。昨年12月に発足したネタニヤフの強硬右派新政権は、辛うじて残る最後の権力チェック機能まで奪い去ろうとしている。

提唱している司法改革では、判事指名への政府の影響力を強める意向だ。最高裁が法律を無効と判断しても、国会で過半数の支持があればこれを覆せるようにもするという。

ここまでやれば、ネタニヤフが収賄と背任の罪に問われている進行中の刑事裁判を、国会が止めることも可能だろう。

改革を進める理由について政権側は、近年は司法が過度に積極的な姿勢を示し、国民の信頼や政府の「統治力」が損なわれているためだとしている。これは裏を返せば、法の支配を踏みにじろうとする政権を司法が制止してきたということだ。

ネタニヤフが司法を擁護した時代もあった。2012年には最高裁を弱体化させる法案は必ず阻止すると宣言し、「強力で独立した司法なしに権利は守れない」と熱弁を振るった。だが、これは打算に基づく主張だった。

司法を擁護することが、彼の政治家としての最大の目標である「権力の維持」に好都合だっただけだ。

目を覆うばかりの新閣僚人事

その状況は変わった。今のネタニヤフは、犯罪者と利権屋を頼りにしている。新政権の内相は詐欺で有罪判決を受けていた(1月に罷免)。国家治安相は極右排外思想を持ち、人種差別の教唆などで有罪判決を8回受けた。

住宅相は超正統派ユダヤ教系学校への政府補助金をかすめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ディスインフレ進行中、「相当な」不確実性が存在=S

ビジネス

USスチールは米にとどまるべき、バイデン氏の方針変

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、米指標が労働市場減速を示唆

ビジネス

米国株式市場=ダウ7日続伸、米指標受け利下げ観測高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 5

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    自民党の裏金問題に踏み込めないのも納得...日本が「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中