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ペルー

前大統領追放は悪夢の入り口、3人のポピュリストが次を狙う(ペルー)

2022年12月19日(月)18時05分
シメオン・テゲル(ペルー在住ジャーナリスト)
ペルー大統領

カスティジョに代わって副大統領から大統領になったボルアルテ(真ん中)だが、デモ鎮圧で死者が出るなど混乱は続いている Peru Presidency/Handout via REUTERS

<カスティジョ大統領の弾劾から、各地に抗議デモが広がったペルー。新大統領は次の大統領選を前倒しすると表明したが、それで混乱が収束するどころか、7万人が死んだ80~90年代の再来になりかねない>

2022年12月7日、ペドロ・カスティジョ大統領の弾劾を可決した後、ペルー議会の議員たちは議場でにこやかに写真撮影するなど、祝福ムードに酔っているように見えた。

2021年7月の発足以来、カスティジョ政権は迷走を続け、汚職疑惑、政策の失敗、議会との対立を繰り返してきた。

しかし、議員たちは喜びに浸っている場合ではない。

カスティジョ(失職後、警察に拘束された)は、確かに弾劾・罷免に値する。同政権がペルーにもたらしたダメージはあまりに大きい。

ペルー国債の信用格付けは下落し続けているし、国民の半分以上が十分な食料を安定的に確保できていない。新型コロナのパンデミックによる打撃に苦しむ国民も多い。ペルーの新型コロナによる死亡率は世界最悪だ。

問題は、カスティジョが政権を去っても、政治的混乱に終止符が打たれるわけではないという点だ。政治的対立と政治の機能不全がますます深刻化する可能性が高い。

最悪の場合は、(規模はもっと小さいにしても)毛沢東主義者の左翼ゲリラと治安部隊の激しい戦闘が続いた80~90年代の再来になりかねない。このときは、7万人近い命が奪われたと言われている。

既に混乱が広がっている。ペルー各地で、大統領弾劾に反発する人々の激しい抗議活動が始まっているのだ。

特に貧困層の中には、社会に根を張る不平等と不公正を打ち壊すと訴えてきたカスティジョのポピュリスト的主張に魅力を感じていた人も多い。

カスティジョに代わって副大統領から昇格したディナ・ボルアルテ新大統領は、非常事態を宣言。2026年に予定されていた大統領選を2023年12月に前倒しすることを表明した。

大統領選の現時点での有力候補は3人。いずれもポピュリスト的な傾向が強く、ペルーの民主政治をさらに混乱させ、厳しい経済状況に追い打ちをかける可能性がある。

有力候補の1人はアンタウロ・ウマラ。2011~16年に大統領を務めた中道左派のオジャンタ・ウマラの弟で、過激な主張で知られる人物だ。

もう1人はラファエル・ロペスアリアガ。現在、首都リマの市長を務めている超保守派政治家である。

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