最新記事

中国

中国で相次ぐ取り付け騒ぎは国有銀行にも及ぶ構造問題

China’s Village Bank Collapses Could Cause Dangerous Contagion

2022年7月28日(木)20時05分
劉宗媛(外交問題評議会・国際政治経済フェロー)

中国河南省の中国人民銀行の支店前に集結した預金者たち Reuters

<ネット金融に活路を見出そうとした農村部の中小銀行が預金者と経済全体を道連れに自滅の道を突き進む>

中国では7月、立て続けに銀行取り付け騒ぎ起きた。きっかけは預金口座が事実上凍結され、ざっと40万人の預金者が総額400億元(60億ドル)に上る預金を引き出せなくなったこと。

7月10日には、中国河南省中心都市の鄭州市で一部村鎮銀行(町村銀行)の預金預金者3000人ほどが、中国人民銀行鄭州支店の玄関前を占領して抗議活動を行なった。「預金なければ人権なし」というプラカードも見えた。私服の警官がデモ隊を取り押さえようとして乱闘になり、負傷者も出た。メディアでは、天安門事件以来の大規模デモ、とも呼ばれ注目を集めた。

【動画】天安門事件以来の反乱? 預金を凍結され怒る中国人と私服警官が衝突

これまでの取り付けの舞台は中国内陸部の村や町だが、一時的なパニックでは収まらず、中国全土の中小銀行の再編の前触れとなりそうだ。預金者たちの悲鳴と怒りの声がソーシャルメディア上で拡散し、中小銀行に対する預金者の信頼は大きく揺らぎ、金融当局は対応に追われることになった。

中国政府は目下、ネット金融の信用問題から不動産危機まで、多方面で金融不安への対応を迫られている。当局としては、中小銀行の取り付け騒ぎが金融危機や社会不安の拡大を招く事態は何としても防がなければならない。

今回の取り付け騒ぎは河南省の3つの村鎮銀行(村や町の銀行)で始まり、1カ月足らずで隣接する安徽省の2行など3行に飛び火した。騒ぎが起きた6行のうち5行はいずれも河南省許昌市に本店を置く許昌農村商業銀行が大株主になっている。なけなしの預金を引き出せなくなった預金者は激しいデモを繰り広げ、中小銀行の支払い能力に対する不信感は広く伝播し、中国各地で取り付け騒ぎが起きかねない状況となった。

政府の肝いりで生まれた村鎮銀行

2021年末時点で村鎮銀行は中国の金融機関数の84%を占めるが、資産総額では全体の13%にすぎない。中国政府は村鎮銀行を地方の農家や零細事業を支える小口金融の柱と位置づけ、2006年に6カ所の農村地域で試験的に設立させた。その後の15年で中国の金融機関では最多の1651の村鎮銀行が誕生したが、いずれも小規模で、リスク管理能力は脆弱を極める。

中国の中央銀行に当たる中国人民銀行も、農村部の186の協同組合と103の村鎮銀行を国内で最もリスクの高い金融機関に格付けしている。

中国政府が恐れるのは金融リスクだけではない。村鎮銀行などの中小銀行が破綻すれば、人々の不満に火がつき、社会不安が一気に広がる恐れがある。

規制当局は農村部の中小銀行の経営を安定させる方策を探ってきた。2018年以降、リスクの高い627の中小銀行が抱える2兆6000億元(3850億ドル)の不良債権を処理した。この金額は2008年以降の10年間の処理総額を上回る。

中国の金融当局である中国銀行保険監督管理委員会と財務省、人民銀行は、農村部の289の中小銀行に総額1334億元(19億7000万ドル)の資本を注入。さらに、経営の安定した銀行や保険会社などに中小銀行の買収や再生支援を行うよう働きかけてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ一時初の4万ドル台、利下げ観測が

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、4月輸入物価が約2年ぶりの

ビジネス

中国の生産能力と輸出、米での投資損なう可能性=米N

ワールド

G7、ロシア凍結資産活用巡るEUの方針支持へ 財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中