濱口竜介監督インタビュー:『ドライブ・マイ・カー』オスカー候補入り、「嬉しいというより、血の気が引いた」
「あとは自分たちの作品がどこまでいくのか、見守ろうという感じです」 Hanschke/Pool via REUTERS
日本映画として初めて、オスカーの作品部門に候補入り。それだけでなく、監督、脚色、国際長編映画部門にも食い込んだ『ドライブ・マイ・カー』の大健闘ぶりは、このアワードシーズンで最も大きな話題のひとつだ。
今回、筆者も所属する放送映画批評家協会(Critics Choice Association)の数名の会員に向けて、オンラインで濱口竜介監督にインタビューを行うことができた。
「予想もしなかったところにたどり着けて、十分満足している」
オスカー授賞式、3週間以上先だが、そこまでにもインディペンデント・スピリット賞、放送映画批評家協会賞、英国アカデミー賞がある。これらの賞でも、外国語映画部門の受賞は、ほぼ間違いない。となると、注目されるのは、肝心のオスカーで、国際映画長編部門以外にも何か受賞できるかどうかだ。
濱口監督本人は、日本中から期待が集まっていることをどう受け止めているのかという問いに、きわめて謙虚に答えた。
「こうやって取材などもたくさんさせていただく中ではいろんなリアクションをもらうことにもなって、本当にすごいことになったんだなと、日に日に感じてはいます。でも、スポーツの試合と違い、(映画の賞の場合は)授賞式当日に何かやるわけではない。もう作品はできてしまっている。自分たちにできることはそんなに多くはないし、あとは自分たちの作品がどこまでいくのか、見守ろうという感じです」。
「何より大事なのは、ここまででもう十分な結果なんだということ。予想もしなかったところにたどり着けて、十分満足しているし、本当に嬉しい。これでさらに何かが起きてしまったらどうなってしまうんだろう、想像もつかない、というのが正直なところです」。
4部門でオスカー候補入りをしたと知ったときについても、「率直に言って、ビビった」と振り返る。
「飛行機でベルリン映画祭に向かっていて、トランジットのときにたくさんメッセージが入っていて知ったんですけれども、嬉しいというより、血の気が引いていくような感じでした。冷静にならないと、というような。自分の人生で起きるなんて思わなかったことが起きていて。こんなことがあるのか、とすごく思いました」。
「『パラサイト〜』がアカデミー国際化の扉をこじ開けてくれた」
このような嬉しいことが起きた背景には、アカデミーの会員層の変化がある。かつて、アカデミー会員の大部分は、白人で高齢のアメリカ人男性で占められていた。その頃、よく言われた「オスカー好みの映画」という表現は、つまりその人たちの好みに合う作品のこと。彼らが共感できるそれらの映画は白人の物語で、出演者も白人中心だ。アメリカ自体は人種が多様なのに、オスカーにそれはまるで反映されていなかったのだ。
だが、その是正に向けて本腰を入れ始めた2016年以後、アカデミーは、有色人種、若い人、女性、外国人を大量に招待してきた。その変化が結果として表れたのが、2020年の『パラサイト 半地下の家族』の作品賞受賞だったのだ。
「アカデミーが国際化してきたというのは、まったくその通りです。自分自身がこうして監督部門や脚色部門に含まれたのも、『パラサイト〜』の力がとても大きいと思います。『パラサイト〜』が扉をこじ開けてくれ、その扉はほかのアジア映画や、アジア以外の映画にも通じていた。その流れの中に自分はいるんだなということを、とても感じています」。