最新記事

ウクライナ情勢

【キエフ、ドネツク】ウクライナ市民の本音を聞く

2022年2月22日(火)17時55分
ジャック・ロシュ(ジャーナリスト)
キエフ「団結の日」の集会

2月16日「団結の日」の集会は意外に参加者が少なかった(ウクライナの首都キエフ) VALENTYN OGIRENKO-REUTERS

<ロシアの侵攻が近いと報じられる中、スーパーの棚には商品がそろい、花屋にはバレンタインデー用のブーケが並んでいた。交錯する悲観と楽観。なぜ市民の危機感は薄かったのか>

危機の中にあって、ウクライナ政府は2月16日を国民の「団結の日」と定めた。

「ロシアが16日にウクライナに侵攻する可能性がある」と米情報機関が警告したという報道を受け、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が講じた措置だ。

ところが、首都キエフの中心部で行われた集会に集まった市民は100人以下。「団結の日」を定めたのは愛国心を高揚させることが狙いだったが、市民の熱い思いはほとんど伝わってこなかった。

多くのウクライナ市民は戦争勃発の危機にもそれほど脅威を感じておらず、外国メディアが大きく取り上げた「団結の日」にも実は冷ややかな姿勢しか見せていなかった。

「『団結の日』は、大統領が望むほどには注目されていない。多くの人は、そんな日があることさえ知らない」と語るのはイルヤ・パフツヤ。修理工の彼は、首都キエフで開かれた小さな集会を遠巻きに眺めていた。

多くの国民と同じくパフツヤも、戦争勃発の脅威に動揺してはいない。

「(戦争が)起こるとは思わない。もちろん本当のところは分からないけれど」

ロシアのウクライナ侵攻がいつなのかが焦点になり、偽の情報が拡散されても、キエフの人々は普段どおりの生活を続けている。スーパーの棚には商品がそろい、花屋にはバレンタインデー用のブーケが並んだ。

それでも、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による威圧外交が一部のキエフ市民に打撃をもたらし始めていることは確かだ。

ロシアが軍を増強し続けていることで、心理的負担が増えていると漏らす人たちも出てきている。

「不安は募っている」と、カフェを営む23歳のカティア(プライバシー保護のためファーストネームのみ)は言う。

「友達との会話では、戦争のことに触れないようにしている。父は戦争が始まるものと思っていて、私に地元の村に帰ってこいと言う」

だが彼女は、最悪の事態が起きてもウクライナを去るつもりはないようだ。

「ここは私の国。私はこの国を愛している。それに、ほかに行く所なんてないし」

【ニューズウィーク日本版 記事まとめ】緊張強まるウクライナの行方

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは横ばい圏155円後半、実需の買い一

ビジネス

日経平均は反発、節目回復で上昇に弾み 先物主導で見

ビジネス

東京海上、政策株式を29年度末までにゼロに 今年度

ワールド

インドネシア経常赤字、第1四半期は対GDP比0.6
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中