最新記事

米ロ関係

極超音速ミサイルでロシアはアメリカを抜いたのか、それともウクライナ侵攻前のブラフなのか?

Has Russia Beaten the U.S. in the Hypersonic Missiles Race?

2021年12月6日(月)18時45分
ブレンダン・コール
プーチン

NATOがウクライナに極超音速兵器を配備すれば報復すると言うプーチン Sputnik/Mikhail Metzel/REUTERS

<ロシアの極超音速ミサイルは、アメリカや中国が開発している最先端のものではなく、古い技術を組み合わせたハリボテだという見方もある>

ロシアのウラジーミル・プーチンは12月3日、海上発射型の極超音速ミサイル「ツィルコン」を来年、海軍の艦船に配備すると明らかにした。極超音速ミサイルは音速の5倍以上の速度で飛行する上に機動性も高く、既存のミサイル防衛システムでは迎撃が難しい。

プーチンはまた、いかなる形のNATOによるウクライナへの派兵も「レッドライン(超えてはならない一線)」を超えることになると発言、西側を強く牽制した。

ロシアは11月29日、ツィルコンの発射実験の成功を発表。相前後して軍部隊をウクライナ国境付近に集結させている。ロシア軍は4月にもウクライナ国境付近に部隊を集結させたことがあったが、ウクライナ侵攻への国際社会の危機感はその時以上に高まっている。

■ロシアの極超音速ミサイル発射実験


プーチンはNATOがロシア国境を侵犯していると非難してもいる。先ごろ出席した投資フォーラムでは、ロシアの隣国であるウクライナに西側の「極超音速兵器が配備され」、5分でモスクワに到達可能な事態になれば、ロシアも同様の対応を取ると述べた。

「今ならそれができる」とプーチンは述べ、極超音速ミサイルの開発競争でロシアが欧米より一歩先に進んでいることを示唆した。

ウェブメディアのポリティコによれば、米宇宙軍のデービッド・トンプソン将軍はアメリカの極超音速ミサイル開発について11月、ロシアや中国ほど「進んでいない」と述べたという。

ツィルコンの飛行速度はマッハ9、射程は1000キロメートルで、昨年1月に初めて軍艦からの発射実験が行われた。以降も、数回にわたって試験が行われている。

イージスを出し抜くスピード

「この兵器が通常兵器としてだけでなく核兵器としても使えるとすれば、(ロシアと)アメリカの間の核バランスが変わると思う」と語るのは、国際問題を扱うウェブメディア「1945」で安全保障問題を担当するブレント・イーストウッドだ。

「対艦ミサイルとしては、アメリカのイージス戦闘システムを凌駕するかも知れない」と、イーストウッドは本誌に語った。

「イージスは飛んでくるミサイルを迎撃するのに反応時間が8~10秒かかるが、その間にツィルコンは少なくとも19キロは飛んでいる。ツィルコンが偶発的に発射され、核攻撃の応酬の引き金を引く事態も心配しなければならない」とイーストウッドは述べた。

「ロシア側にとっては魅力的な武器だ。ミサイル開発の技量を示せるし、プーチンのプロパガンダに利用できる」

プーチンは2018年3月、連邦議会で「スーパー兵器」と称される核兵器搭載可能な5種の武器の開発計画を発表した。だがツィルコンはその中には含まれていない。

スーパー兵器のうち、大型ICBM(大陸間弾道ミサイル)のサルマート、極超音速滑空兵器のアバンガルド、水中ドローン(無人機)のポセイドン、原子力巡航ミサイルのブレベストニクの4つはいずれも射程が長く5000キロ超の戦略兵器だ。残る1つのキンジャールは極超音速空対地ミサイルで射程はもっと短く、準戦略兵器に分類される。


■ロシアの新型ICBMのサルマートは多数の弾頭を搭載できる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中