最新記事

映画

「白人で通じる黒人」の祖父を持ったレベッカ・ホールが見つけたもの

2021年11月11日(木)18時50分
猿渡由紀

「私自身がこの映画のテーマの生きた例なのよ」

さらには、「なぜ白人のあなたが黒人の話を語るのか」という、当然の疑問があった。カメラの前でも後ろでも多様性が求められ、配慮がなされる現代のハリウッドでは、黒人の話なら黒人に語ってもらうのが正しいとされる。有色人種のフィルムメーカーの支援を主なミッションとするフォレスト・ウィテカーのプロダクション会社に持ち込んだ時も、最初は「僕らにあなたのお手伝いができるかどうかわからないが」と言われた。しかし、ホールが祖父についての話をすると、「なるほど。これはあなたが語るべきストーリーだ」と納得してくれている。

「同じことを聞かれるたびに、私は、『それは、あなたが私の外見から受ける印象ですよね』と言ったわ。私自身がこの映画のテーマの生きた例なのよ。でも、この映画を作る上で障害になったのは、それだけではない。モノクロでなくカラーでやれないか、曖昧さをもっとなくしてくれないか、などとも言われた。何より、黒人女性ふたりが主人公の映画で果たして稼げるのかという疑問を持たれたし」。

Passing2011111aa.jpeg

「PASSING -白い黒人-」 Netflix

それでも、映画は見事完成。今年初めのサンダンス映画祭でお披露目されると、Netflixが1,500万ドルで世界配給権を買い付けて、話題を集めた。インディーズ映画に与えられるゴッサム・アワードでも、作品部門を含む5部門でノミネートされており、このアワードシーズン中に、ますます注目が高まっていきそうである。批評家からも高く評価されているが、ホールにとって何よりも嬉しいのは、彼女の一番大切な人が気に入ってくれたことだ。

「母もこの映画を見てくれた。そして、とても誇りに思ってくれている。この映画を見たことで、母は、自分が引き継いできたものをしっかり受け入れられたのだと思う。今、私と母は、その前だったら話さなかったようなことについて話す。おかげで、祖父についてこれまで知らなかったことを知ることができた。祖父は、すばらしい人だったのよ。その事実はこれまで消されていたの」。
グレーだった祖父の存在は、今、ホールの中で鮮やかな色を持ち始めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正ゆうちょ銀、3月末の国債保有比率18.9%に 

ビジネス

ユーロ圏GDP、第1四半期改定は前期比+0.3% 

ワールド

EXCLUSIVE-米財務省、オーストリア大手銀に

ワールド

焦点:米の新たな対中関税、メキシコやベトナム経由で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中