最新記事

豪中関係

中国に「ノー」と言っても無事だったオーストラリアから学ぶこと

Australia Shows the World What Decoupling From China Looks Like

2021年11月11日(木)17時49分
ジェフリー・ウィルソン(西オーストラリア大学パース米国アジアセンター研究部長)
モリソン豪首相と習近平・中国国家主席

モリソン(左)が輸入制限に屈服しなかったのは習近平にとって大誤算 Carlo Allegri- REUTERS、Jason Lee -REUTERS

<コロナ発生源の独立調査を主張したオーストラリアに、中国政府は前例のない、経済全体に関わるほどの報復措置を仕掛けたが影響は驚くほど小さかった。これを見て、オーストラリアに追随する国々も出てきている>

事の発端は、オーストラリアが「傲慢にも」、新型コロナウイルスの発生源について独立した調査をすべきだと主張したことだった。中国はこれに激怒し、前例のない大規模な通商上の報復措置を取った。農産物から石炭まで、多分野に及ぶオーストラリア産品の輸入を凍結。両国の経済関係はあっという間にデカップリング(切り離し)の憂き目を見た。

とはいえ中国の狙いが、オーストラリアの「反抗」に経済的なお仕置きをし、それを見せしめにして、他の国々にも「逆らったら痛い目に遭うぞ」と警告することだったのなら、その思惑は見事に外れたことになる。

中国の制裁がオーストラリア経済に及ぼした影響は今のところ驚くほどわずかだ。オーストラリア経済の速やかな回復は、対中デカップリングのコストが想像よりはるかに低いことを示唆している。中国の流儀に違和感を抱いている他の国々も、その事実に気づいたはずだ。

「暗黙の了解」の上に

豪中関係は長年、根底に緊張をはらんできた。経済的なつながりは深まる一方で、政治的には深い溝が横たわっている。民主主義や人権といった価値観の違いに加え、オーストラリアは中国がインド太平洋諸国に好戦的な姿勢を強めていることを懸念している。一方の中国は、オーストラリアが反中に傾いていると不満を募らせてきたが、両国の間には過去数十年、暗黙の了解があった。急速に拡大する経済関係を優先し、政治的な相違とは分けて考えよう、というものだ。

これはうまく行った。2009〜2019年にオーストラリアの対中輸出は3倍に伸び、年間1490億オーストラリアドル(約1100億ドル)に達した。その約半分を占めるのは鉄鉱石で、中国の建設ブームを支えてきた。残りの半分は石炭、天然ガス、農産品など。加えて、コロナ前まで毎年大勢訪れていた中国人留学生と観光客もオーストラリアにとっては大事なお客さまだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金融デジタル化、新たなリスクの源に バーゼル委員会

ワールド

中ロ首脳会談、対米で結束 包括的戦略パートナー深化

ワールド

漁師に支援物資供給、フィリピン民間船団 南シナ海の

ビジネス

米、両面型太陽光パネル輸入関税免除を終了 国内産業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 8

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 9

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中