最新記事

心理学

特定の「誰か」を猛烈に攻撃する善良な市民たち...集団心理の脅威を名著に学ぶ

2021年10月29日(金)11時32分
flier編集部

「自分で考えること」の難しさ

211028fl_gssr04.jpg

『大衆の反逆』
 著者:オルテガ・イ・ガセット
 翻訳:神吉敬三
 出版社:筑摩書房
 flierで要約を読む

「自分は人と同じ意見になるのはイヤ」といくら思っていても、結局多くの人は、「まったく人と異なること」には安心できません。スペインの哲学者であるオルテガ・イ・ガセットは『大衆の反逆』のなかで、そうした「大衆像」を克明に描きました。

ある共通の精神状態をもった群衆が、より「全体的な総意」を形成するような状態に膨れてくると、そこに「大衆」が生まれます。この大衆は"平均的な人"の考えを代表していて、「普通はこうする」「普通はこう考える」という空気をつくります。

かれらにとってそれは「社会の常識」なので、その考えと異なるものは排除されてしまう。それがどんなに世の中を良くしようとするものであっても、です。

そうしているうちに、大衆の一人ひとりは「自分自身の考え」に自信がもてない状態になってしまった、というのがオルテガの主張でした。究極的には国家に依存し、国がなんとかしてくれるだろうという感覚、もっと言えば、国がなんとかできないならどうしようもないだろうという諦めにつながっているのではないか、と考えたのです。

何となく、現代の私たちの感覚でも、イメージしやすいですよね。国のレベルまでいかなくても、会社が、上司がこう言っているから、会社がなんとかしてくれるだろう、といった気持ちがどこかにあったりしませんか?

だからこそ、他でもない自分がよりよく生きたいのであれば、「大衆」であることをやめて、個として立ち上がらなくてはならないのです。いままで自分を支えてきた「大衆の空気」を捨てるのですから、それは大変な道のりになるでしょう。しかし、それが自分の運命を切り開くことなのだ、という力強いメッセージを、本書は伝えているのです。

◇ ◇ ◇

リベラルアーツの本は、なじみがないものも多く、近寄りがたいかもしれません。

でも、現代まで生き延びてきた「教養の言葉」たちには、私たちが生きていく意味に直結する、本質的な「人間」が描かれています。

flier編集部

本の要約サービス「flier(フライヤー)」は、「書店に並ぶ本の数が多すぎて、何を読めば良いか分からない」「立ち読みをしたり、書評を読んだりしただけでは、どんな内容の本なのか十分につかめない」というビジネスパーソンの悩みに答え、ビジネス書の新刊や話題のベストセラー、名著の要約を1冊10分で読める形で提供しているサービスです。

通勤時や休憩時間といったスキマ時間を有効活用し、効率良くビジネスのヒントやスキル、教養を身につけたいビジネスパーソンに利用されているほか、社員教育の一環として法人契約する企業も増えています。

flier_logo_nwj01.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中