最新記事

エネルギー

再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機

EUROPE’S ENERGY LESSONS

2021年10月14日(木)18時13分
ブレンダ・シェーファー(民主主義防衛財団エネルギー問題上級顧問)

211019P44_ENG_02.jpg

スペインでは電気料金が記録的に高騰し、抗議するデモが発生 JESUS MERIDAーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

EUの誤算でロシア有利の状況に

そのため、この政策はいくつかの点でネガティブな結果を招いた。まず、日々変動するスポット価格を基準にした結果、天然ガスの価格支配力を持つロシア側の優位性が一段と高まった。ロシアはヨーロッパ向け天然ガスの最大の供給国であり、生産力には十分な余裕がある。だから供給量の調節によって、いくらでも市場価格を操作できる。

それだけではない。固定価格方式の排除は供給の安定を困難にする。天然ガスの生産とパイプライン敷設には巨額の投資と長年に及ぶ開発期間が必要だ。それほどの投資をする意欲はなかなか生まれないから、供給側の数は限られる。結果、ロシアの市場支配力が高まった。そのロシアが欧州地域への供給拡大に後ろ向きであることも、今回の危機の要因となっている。

ロシア産天然ガスの供給減を補うには割高な液化天然ガス(LNG)の輸入を増やすしかない。しかしLNGは従来から東アジア諸国が買っており、その価格水準はヨーロッパより高い。それでも買いたければ、ヨーロッパはアジア諸国以上の価格を受け入れるしかない。

価格は市場原理に委ねると言いながら、EUはしばしば政治的な目的を優先してきた。総電力に占める再生可能エネルギーの割合を増やすよう加盟国に義務付けているし、電力会社が最も採算性の高い燃料(石炭)を使うことも許さない。しかも大半の国が電気料金やガス料金に規制を設けているから、電力会社はコストを消費者に転嫁できない。

問題はそれだけではない。太陽光や風力に頼る場合、発電量は天候に左右される。しかし電力会社は電力の安定供給と停電回避を求められているので、悪天候時のバックアップ用に在来の(つまり天然ガスや石炭を燃やす)火力発電施設も維持しなければならない。

言うまでもないが、そうした余剰発電能力の維持には費用がかかる。しかしその費用は、再生可能エネルギー事業者ではなく、電力会社が負担し、最終的には消費者に転嫁される。しかもエネルギー価格の上昇を受けて、イギリスを含む各国政府は新たに価格上限を設けた。これでは市場の自由を放棄したに等しい。

ヨーロッパは長期に及ぶ寒波の到来といった急激な電力需要増への対策を用意していない。自国内で電力不足が予想される場合、各国政府はどんな犠牲を払っても国内向けの天然ガスを確保しようとする。例えば厳冬となった2010年の初め、一部の国は国内の暖房用電力を確保するため、ルール違反を承知でパイプラインから他国向けのガスを抜き取った。今年もガスの供給量が落ち込んでいるから、同様な事態が起きる可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中