最新記事

アフガニスタン

アフガンの失敗は必然...アメリカは「国家の文明化」に成功したことがない

AMERICA’S HUBRIS

2021年9月29日(水)20時43分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
アフガンの米兵

アフガニスタン南部の村を警備する米兵と逃げる住民(09年) JOE RAEDLE/GETTY IMAGES

<アフガニスタンでも「リベラルの押し付け」の失敗を繰り返したアメリカだが、ついに非現実的な目標を放棄したようだ>

ジョージ・W・ブッシュ元米大統領は2010年の回顧録『決断のとき』(邦訳・日本経済新聞出版)に「アフガニスタンの国造りは究極の使命だった」と書いた。「私たちは未発達で独裁的な政権から国家を解放し、より良いものを残す道徳的義務を負っていた」

こうした見方は驚くものではない。植民地主義的な活動は、常に「国家を文明化するという使命」として正当化されてきた。そしてアフガニスタンのように、常に失敗している。国造りは内側からしかできないのだ。

確かに、アメリカが成功したこともある。第2次大戦後のマーシャルプラン(欧州復興計画)はゼロからの国家建設というより、国家の「再建」だった。対象となった国は国家としての能力があり、市場経済が機能し、国としての一体感もあった。

アメリカは日本とドイツの「民主化」にも成功したが、ドイツにはワイマール共和国の伝統があり日本は大正デモクラシーを経験していた。民主主義の伝統がない国に、民主主義を「輸出」したわけではなかった。

これらは、最近のアメリカの「ミッション」とは全く違う。冷戦の勝利後、アメリカは「リベラルの押し付け」を進めた。アフリカだけでも、ブルンジやソマリアなどで歴史や社会政治的な文脈を完全に無視した国造りに着手した。対象となった国々は、今も非常に脆弱な状態にある。

アフガニスタンでは、米軍の完全撤退前にアメリカの支援する政府が崩壊するなど、国家建設の失敗が際立った。だが、それは想定内でもある。アフガニスタンに欧米的な意味での国家が存在したことはない。

米軍がアフガニスタンの直後に侵攻したイラクは、国家としては存在していた。しかし18年に及ぶアメリカによる占領後も、人権と法の支配による統一された多民族の民主主義国家にはならなかった。

「解放」をアフガニスタン人は占領と認識

民主的統治や信頼できる制度を手にした歴史がなければ、それらを築けないわけではない。だが社会の一体感も、政治的な多元主義の伝統もない国で民主化を推し進めるのは、相当に厳しい仕事だ。

例えば部族社会のアフガニスタンで国家を建設するのは、国をゼロから造ることに等しい。その作業の性質と範囲からして、外国の力では無理だろう。

戦時には特にそうだ。アフガニスタンとイラクでのアメリカの国家建設は、現地で数十万人の犠牲者を出した軍事的侵略から始まった。現地の人々がアメリカの「解放戦争」を占領として認識し始めると、反米感情が急激に高まった。05年の時点で米軍の撤退を望んでいたアフガニスタン人はわずか17%だったが、09年には53%に増えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、総裁「状況は正しい方向」 利

ビジネス

FRB「市場との対話」、専門家は高評価 国民の信頼

ワールド

ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではな

ワールド

英世論調査、労働党リード拡大 地方選惨敗の与党に3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 6

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中