最新記事

米中関係

中国の台湾侵攻は起こりえない──ではバイデン強硬姿勢の真意は?

Don’t Hype Invasion Fears

2021年6月3日(木)20時34分
アミタイ・エツィオーニ(ジョージ・ワシントン大学教授)
2019年の中国建国70周年式典

中国の軍備増強に欧米諸国は警戒を強めているが(2019年の建国70周年式典) AP/AFLO

<米バイデン政権は中国の脅威を盛んに唱えるが、それは国内政治を有利に進めるための策にすぎない>

いつもは慎重な論調で知られる英エコノミスト誌が5月1日号の特集で台湾を取り上げ、表紙に「世界で最も危険な場所」という文言を載せた。

台湾で一体、何があったのか? ロシアがクリミア半島を併合したように、台湾が実効支配する金門島と馬祖島を中国が占領したのか? それとも中国が、反中的な台湾政権に攻撃をちらつかせて脅しをかけたのか?

もちろん違う。中国は台湾周辺での軍事演習や戦闘機による防空識別圏侵入などによって台湾への圧力を強めているが、大々的と言うほどでもない。中国が台湾を中華人民共和国に組み込んで統一しようとしているのも、軍備を増強しているのも確かだが、今に始まったことではなく、何十年にもわたる野望だ。

これまでと違うのは、ジョー・バイデン米大統領の動きだ。自国民を団結させ、超党派の支持を得られる課題を見つけ出すのに躍起になっていたバイデン政権は、ついにそれを見つけたのだ。新型コロナウイルスの抑制でも、経済を再開して通常の生活を取り戻すためのワクチンの一斉接種でもない。バイデン政権がたどり着いたテーマは「中国たたき」だ。

冷戦期を思わせる手法

アメリカの共和党と民主党は、中国が新疆ウイグル自治区のイスラム教徒や香港を弾圧していることを格好の攻撃材料にして、競い合うように中国を糾弾してきた。そんな両党のアプローチが、どうやら功を奏したらしい。

ピュー・リサーチセンターの最近の調査では、「中国をパートナーではなく競争相手、または敵と見なしている」と答えたアメリカの成人は全体の89%に上った。中国に「冷ややかな」感情を持つアメリカ人の割合は、2018年の46%から今年は67%に増加。「非常に冷ややかな」感情を持つ人の割合は、同じ時期に23%から47%へと2倍以上に増えた。

バイデンはこの流れに乗ろうと決めた。閣僚たちは、あえて扇情的な言葉を使った。ウイグル人が収容されている施設を強制収容所と呼び、そこでジェノサイド(大量虐殺)が行われていると訴えた。アントニー・ブリンケン国務長官は穏健路線を模索する各国に対し、アメリカの味方につくのかどうかと迫った。

冷戦時代の米政権は、政府の事業はどんなものでもソ連の打倒に役立つと訴えることで、思いどおりに事を進めた。いまバイデン政権は、当時と同じ手法を取っている。インフラや子供の福祉、民主主義の強化などに巨額の予算を振り向ける必要があるが、それは何より中国に対抗するためだと主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中