最新記事

インド

インドのコロナ取材、欧米メディアの非常識...病室に押しかけ火葬を蹂躙

The Lurid Orientalism

2021年5月13日(木)20時02分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)
ニューデリーでの集団火葬の様子(4月21日)

火葬はヒンドゥーでは聖なる弔いの過程だ。欧米視聴者の見せ物ではない(ニューデリー、4月21日) DANISH SIDDIQUIーREUTERS

<コロナ禍のインドから報じられる火葬は宗教的な伝統。異国で起きた悲劇を興味本位で切り取るな>

多数の犠牲者を伴う悲劇を報じるとき、死者と悲しみに暮れる人々に配慮することは、ジャーナリズムの基本的なルールであるはずだ。欧米メディア(国際報道機関とも呼ばれる)は、国内では通常このルールを守るが、欧米以外の国の悲劇を報じるときは無視することが多い。

インドを襲う新型コロナウイルスの感染拡大第2波の報道は、その格好の例だろう。欧米メディアは、遺体や悲惨な光景を捉えた映像でいっぱいだ。いずれも、欧米で同じようなことが起きたときには、誌面に掲載されたり放送されたりすることのないタイプの映像だ。

これまでの新型コロナによる死者数の約半分は、ヨーロッパとアメリカで生じている。だが、欧米メディアは国内の生々しい光景を、ありのままに報じることは控えてきた。感染のピーク時でも、テレビ局のクルーが病院の救急室にずかずかと入り込み、圧倒されている医師や看護師にカメラを向けることなど、あり得なかった。

ところが今、まさにそうした映像がインドから世界に向けて配信されている。その行為が、人間の生死を分ける判断にどんな影響を与えるかという配慮は、ほぼ見られない。欧米メディアの記者たちは、家族を失ったばかりのインド人を取り囲み、愛する人の死を悼むプライベートな場面を欧米視聴者の見せ物にする。

宗教的でプライベートな儀式を蹂躙

同じ報道機関が、同じ悲劇を報じる場合でも、それが国内で起こっている場合は、ずっと慎重な配慮がなされる。

ニューヨーク市がコロナ禍のピーク時に、引き取り手のない大量の遺体を公営墓地に集団埋葬する決定を下したときは、大樹が並ぶ草地の幻想的な写真と共に報じられた。これに対してインドのコロナ禍は、ショッキングな集団火葬場の映像が、あらゆるメディアにあふれている。

屋外で薪を積んで行われるインドの火葬風景は、欧米の小説や旅行サイト、絵画のモチーフによく使われてきた。欧米メディアは今、ここぞとばかりにその光景にカメラを向けることで、ヒンドゥー教の伝統に対する視聴者の病的関心を満足させる。そこには、火葬という極めて宗教的で、プライベートな儀式を蹂躙しているという認識はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中