最新記事

台湾

アメリカはなぜ台湾を支援するのか──背後に米中ハイテク競争

2021年4月25日(日)19時15分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

だからトランプは台湾にエールを送り続けた。

トランプのこの戦略は成功し、ファーウェイの5Gスマホ等の勢いは鳴りを潜める結果となった。

世界で圧倒的に強い、一人勝ちのTSMC

TSMCがどれだけ圧倒的に強いか、世界のハイテク市場の最新情報を提供する台湾の調査会社として信用が高いTrendForce(トレンドフォース)が調べた情報から考察してみよう。

以下に示すのは「TrendForce 2020年12月データ」の一部で、「国別・企業別ファウンドリのマーケット・シェア」である。

endo20210425181501.jpg
TrendForceが調べた「国別・企業別ファウンドリのマーケット・シェア」(2020年12月データ)

図表はオリジナルのママにしてある(たとえば、国別の灰色の「Others」の区切りで「7%+7%」が13%になっていたり12%になっていたりするが、それは誤差範囲か何かとみなして無視する)。

注目したいのは、台湾が2020年も2021年(予測値)も全世界の64%を占めていることだ。おまけに、その内TSMCが占める割合は54%である。この圧倒的シェアの前には誰もがひれ伏すとしか言いようがない。

仮にこれを全て中国大陸に持って行かれたとしたら、米中覇権競争において文句なしに中国が勝つことになるだろう。

しかし中国が「一つの中国」原則で台湾(中華民国)の尊厳を激しく傷つけるため、その尊厳を認めてくれるアメリカに台湾側がなびくのは当然のことだ。

もちろんアメリカがエンティティ・リストによって「アメリカ原産品目の組み込み率25%」を基準値としてファーウェイなど中国大陸のハイテク企業への半導体製品提供を禁じているので、半導体製造プロセスにおいて「アメリカ原産品目」を25%以上使用しているTSMCにとっては、アメリカが台湾に近づいてこなくても「制裁を受ける」ことからファーウェイへの半導体製品提供はできない。それが基本にあるにはあっても、いくらでも抜け道は探せるので、「台湾ごと」抱え込みましょうというのがトランプの戦略だった。

中国大陸とのサプライチェーンのディカップリングを徹底させるということである。

その姿勢はバイデン政権になっても変えることができないのが、4月23日のコラム<米上院の「中国対抗法案」に中国激怒!>に書いた「2021年 戦略競争法案」なのである。

これによりアメリカは今後「台湾」を「中華民国」と呼ぶことになる可能性が大きい。

但し、「一つの中国」原則は守りますというのが、この法案の言い分である。

アメリカや日本にシフトしていくTSMC

TSMCはトランプの強烈な誘いにより、アメリカのアリゾナ州に工場を新しく建設することになった。これは昨年5月に発表されたが、昨年12月にアリゾナ州工場建設許可が下りて、2024年から生産開始されることが決まった。台湾の中央行政省庁の一つである経済部が12月22日に発表した。初期投資35億ドルでアリゾナ州フェニックスに工場を建設し、12インチの半導体ウエハーを生産する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中