最新記事

睡眠

睡眠中に夢を見ている人とリアルタイムでコミュニケーションすることに成功した

2021年2月24日(水)18時50分
松岡由希子

映画「インセプション」のような、夢のハッキングはまだ遠いが......  K.Konkoly

<米ノースウェスタン大学などの研究チームは、明晰夢(夢であると自覚しながら見る夢)を見ている人とリアルタイムで双方向のコミュニケーションをする実験に成功した...... >

私たちは睡眠中、急速眼球運動を伴う「レム睡眠」の状態で、しばしば夢を見る。一度目が覚めてしまうと夢の記憶は曖昧で、しばらくすると忘れてしまうため、夢について解明されていないことは依然として多い。

米ノースウェスタン大学、仏ソルボンヌ大学、独オスナブリュック大学、蘭ラドバウド大学医療センターからなる国際研究チームは、明晰夢(夢であると自覚しながら見る夢)を見ている人とリアルタイムで双方向のコミュニケーションをする実験に成功した。

レム睡眠中に双方向コミュニケーションを試みた

2021年2月18日に学術雑誌「カレントバイオロジー」で発表された研究論文では「睡眠中に夢を見ている人は、質問を理解し、作業記憶(ワーキングメモリ)を用いて答えを導き出すことができる」ことも示されている。

被験者は、米国人22名、ドイツ人10名、フランス人1名、オランダ人3名の計36名で、過眠症の一種ナルコレプシーである1名を含め、明晰夢を頻繁に見る者が数名いた。被験者には、事前に、レム睡眠中のコミュニケーションとして、目を左右に動かす、顔の筋肉を収縮させるといった合図を覚えさせたうえで、頭部と目、あごに電極を装着して眠ってもらった。

研究チームは、被験者の脳波や眼球の動きをモニタリングし、被験者のレム睡眠中に双方向のコミュニケーションを試みる実験セッションを計57回行った。

研究チームが「あなたは今、夢の中にいますか」とたずねると、26%のセッションで、被験者が、事前に指示された合図のとおり、目を左右に動かすなどして、自分が明晰夢を見ていることを伝えた。「8から6を引くといくつですか」といった簡単な算数問題や「あなたはスペイン語を話せますか」などのイエス・ノー質問に正しく答えたり、閃光の数を正確に数えたりすることもできた。

研究チームがレム睡眠中の被験者に投げかけた計154回のタスクのうち、正しい反応がかえってきたのは18.4%で、17.7%は判別不能な反応、3.2%は誤った反応であった。また、60.8%は無反応だった。

問いかけが夢に重なるようにして聞こえた

レム睡眠中に反応した被験者の多くは、目が覚めたあとに「夢の中で研究チームからの問いかけを受け取った」と述べたが、その内容は誤っていたり、思い出せなかったりした。被験者の報告によると、研究チームからの問いかけが、ラジオのように、夢の外側から流れてきたり、夢に重なるようにして聞こえたそうだ。

たとえば、ある被験者は、夢の中でパーティをしているとき、「あなたはスペイン語が話せますか」という映画のナレーションのような声が聞こえたので、事前に指示されたとおり、顔の筋肉を収縮させて「いいえ」と答えたという。

一連の研究成果は、夢や記憶に関する今後の研究や、睡眠障害の治療などにも役立つのではないかと期待が寄せられている。


Dream Hacking: Watch 3 Groundbreaking Experiments on Decisions, Addictions, and Sleep I NOVA I PBS

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ビジネス

中国平安保険、HSBC株の保有継続へ=関係筋

ワールド

北朝鮮が短距離ミサイルを発射、日本のEEZ内への飛
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中