最新記事

対中戦略

強大化する中国を前に日米豪印「クアッド」が無力な理由

Anti-China Alliance Will Fail

2021年2月22日(月)11時30分
キショール・マブバニ(国立シンガポール大学フェロー)

日米豪印外相会談で4カ国の結束をアピールしたが(昨年10月、東京) CHARLY TRIBALLEAU-POOL-REUTERS

<中国の「武器」は巨大な消費市場──経済連携なき軍事同盟では太刀打ちできないことは、米ソ冷戦の歴史を見れば明らか>

オーストラリア、インド、日本、アメリカの4カ国が中国を警戒するのは理にかなっている。強大化する中国に日米豪印戦略対話(クアッド)で対抗しようとするのも理にかなっている。

だが残念ながらクアッドではアジアの歴史の流れは変えられないだろう。理由は2つ。4カ国の地政学的利害と中国に対する脆弱性がそれぞれ異なるから。そして何より、大規模な戦略的駆け引きは軍事ではなく経済分野で起きているからだ。

中国に対して最も脆弱なのはオーストラリアだ。経済は中国頼み。約30年に及んだ景気後退なき成長は、経済的には中国の属州のようになったからこそだ。2018~19年、オーストラリアの輸出の約33%が中国向けで、アメリカ向けは約5%だった。

それだけに、オーストラリアが新型コロナをめぐる国際調査を要求し、中国を公然と侮辱したのは賢明ではなかった。墓穴を掘った形だ。豪中関係が悪化するなか、にらみ合いで先にひるむのはどちらか。答えは出る前から分かっている。仮に中国が譲歩すれば、オーストラリア以外のアジアの国々も中国を侮辱するだろう。

オーストラリアは中国を追い込んだ。だが中国には時間的余裕がある。「豪政府にとって問題は、切り札のほとんどを中国側が握っていることだ」と、豪国立大学のヒュー・ホワイト教授(戦略研究)は言う。「モリソン政権はそれが分かっていない」

日本も別の面で脆弱だ。オーストラリアは友好的なASEAN諸国に恵まれているが、日本の周辺は中国、ロシア、韓国と非友好的な国ばかり。経済規模が比較的小さいロシアや韓国となら何とかやっていけるが、問題ははるかに強大化した中国だ。とはいえ、20世紀前半を除けば、日本は常に中国という強大な隣国と平和的に共存してきた。

巨大市場が雌雄を決する

インドと中国の関係には日中とは逆の問題がある。両国は共に古い文明を持ち、何千年も隣り合ってきたが、ヒマラヤ山脈が壁となり直接接触することはほとんどなかった。現代の科学技術がその壁を克服した結果、昨年6月のように中国軍とインド軍が遭遇し、衝突に発展するケースが増加している。

だが時間は中国に味方している。中国の経済規模は1980年にはインドと互角だったが昨年は約5倍に。2大国の関係というのは、長期的には常に双方の相対的な経済規模に左右される。ソ連がアメリカとの冷戦に敗れたのは、消費支出でアメリカに大きく水をあけられていたためだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中