最新記事

アフリカ

ナイジェリアの分離独立「ビアフラ闘争」、内戦から半世紀を経ても未だ終わらず

Biafra’s Pain Is Still Fresh

2020年7月4日(土)14時00分
パトリック・エグウ

50年前の内戦ではビアフラ側に戦死と餓死を合わせて200万以上の犠牲者が出た KEYSTONE-FRANCE-GAMMA-KEYSTONE/GETTY IMAGES

<悲惨な内戦の終結から半世紀を経た今も、独立を望むイボ人と抑圧する政府の構図は変わらない>

若い人が知らないのも無理はない。50年前のことだし、あれからも世界中で数え切れないほどの紛争や内戦があったのだから。

1970年の1月15日、ナイジェリア(今やアフリカの大国だ)の内戦が、少なくとも形式上は終わった。南東部のイボ人が1967年に「ビアフラ共和国」の分離独立を宣言したことに始まる凄惨な争いだったが、負けたのはビアフラ側。ほぼ3年にわたる内戦と飢餓の犠牲者は200万~300万人とされるが、その大半はビアフラ側の女性と子供だ。

その後、石油輸出でナイジェリアは潤い、キリスト教徒が多いイボ人の再統合も順調に進んだように見える。しかし半世紀たった今、再びビアフラ独立の機運が高まっている。

今年5月30日には分離独立派の人たちが幻の独立宣言の記念日を祝った。53年前のこの日、33歳の若さでビアフラ独立を宣言したオドメグ・オジュク中佐は、英オックスフォード大学で歴史を学んだ男だった。

新型コロナウイルスのせいで集会は開けなかったが、多くの人がオンラインで半世紀前の記憶をシェアした。そして今も独立の夢を追い続ける民族組織IPOB(ビアフラ先住民族)への賛同の声があふれた。

IPOBなどの分離独立派は5年ほど前から国内各地で平和的な抗議行動を組織し、民族自決を訴えてきた。IPOBの指導者ンナムディ・カヌは亡命先のイギリスから、一貫して平和的な住民投票による分離独立の実現を掲げている。しかしナイジェリア政府はこれを拒絶し、しばしば暴力で抑え付けてきた。

カヌはロンドンでオンライン放送局「ラジオビアフラ」を立ち上げ、その主張を内外の支持者に伝えていた。だが祖国へ舞い戻った後の2015年10月、ナイジェリアの治安部隊により、反逆罪と国家の分裂を画策した容疑で逮捕された。

これで一気に政治的緊張が高まった。各地で連日のように支持者が街頭に繰り出し、何千人もがビアフラの旗を掲げ、ビアフラの歌を歌って行進し、カヌの無条件釈放を求めた。

治安部隊が活動家を殺害

それはおおむね平和的なデモだったが、治安部隊は過剰に反応。実力行使と法を無視した殺害が繰り返された。翌2016年には国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが、ナイジェリアの治安部隊は「超法規的処刑と暴力による冷酷な作戦を展開し、同国南東部で少なくとも150人の平和的なビアフラ独立派活動家を殺害した」と非難している。

【関連記事】「物語はイズムを超える」翻訳家・くぼたのぞみと読み解くアフリカ文学の旗手・アディーチェ
【関連記事】殺人を強いられた元少女兵たちの消えない烙印

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中