最新記事

米軍

ドイツ駐留米軍を減らすトランプの3つの勘違い

The Truth About German Bases

2020年6月19日(金)16時50分
マイケル・ウィリアムズ(ニューヨーク大学国際関係プログラム部長)

ドイツのラムシュタイン空軍基地で米軍兵士と記念撮影するトランプ(2018年) JONATHAN ERNST-REUTERS

<国防は自前でやれとばかり──ドイツ駐留米軍の削減を決めたトランプ政権が分かっていない戦略の本質>

トランプ政権はドイツ駐留米軍の兵力の上限を2万5000人までとし、9500人を撤収させる意向だと、6月初めにメディアが伝えた。

この決定は「自国の防衛を米軍に押し付け、国防費をけちっている」ドイツに対する不満の表明だろう。ドナルド・トランプ米大統領はこの問題で欧州の同盟国にずっと文句を言い続けてきた。

だが今回の報道で分かるのは、トランプ政権がヨーロッパにおける駐留米軍の役割を全く理解していないことだ。この決定の背後には3つの誤った認識がある。その1、米軍はドイツを守るためにドイツにいる。その2、ドイツとアメリカはロシアの脅威について共通の認識を持っている。その3、この問題は詰まるところドイツをはじめ欧州のNATO加盟国が国防費を目標の対GDP比2%に増やすかどうかに還元される──。

次期米政権がヨーロッパにおけるアメリカの影響力を維持したいなら、この3つの勘違いを正さなければならない。

在外米軍基地の大枠が定められたのは1943年。アメリカが太平洋と大西洋で新たに獲得した覇権を維持するため旧陸軍省の幹部が立案した。

長距離の戦略爆撃が可能になり、核兵器開発が進むなか、将来的に米軍の戦闘力を支える米本土の軍需工場が敵の標的になると予想された。外国に基地を置けば、米本土から遠く離れた敵国を攻撃でき、平和時の戦力投射(危機に迅速に対応できるよう自国の領土外に軍隊を派遣できる体制を築くこと)にもなる。

ハリー・トルーマン大統領はソ連の最高指導者ヨシフ・スターリンにクリル列島に米軍基地を置きたいと頼みさえした。もちろんスターリンは断ったが、トルーマンがクリル列島に置こうとした米軍基地は必ずしもソ連を標的にしたものではない。「アメリカの安全保障政策の目指す範囲が広がり、それが在外米軍基地の建設計画につながった」と、歴史家のメルビン・レフラーは論じている。

今でも基本的にその事情は変わらず、米軍は世界80カ国に基地を置いている。なかでもドイツの軍事施設は米軍にとって非常に重要だ。例えばラムシュタイン空軍基地は中東、北アフリカ、南アジアにおける米軍の作戦行動を支える兵站のハブになっている。

トランプ政権はこうした状況を無視しているばかりか、もう1つ重要な事実を見落としている。大多数のドイツ人はロシアを軍事的な脅威と見なしていないことだ。

ロシアを恐れぬドイツ

冷戦中の米政府と西ドイツ政府は、対ソ外交では路線の違いこそあれ、ソ連が重大な軍事的脅威であるという認識は共有していた。西ドイツは、NATOの存在によってソ連の侵攻を抑止できると考えていた。ここでは「抑止力」がキーワードだ。ヨーロッパで戦争が起きれば、西ドイツは壊滅的な被害を受ける。だから全面戦争を何としても避けたいと考え、段階的な緊張緩和を目指していた。

【参考記事】アメリカ人の過半数が米軍による暴動鎮圧を支持【世論調査】

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

フィリピン、ニッケル事業に米中などが関心 EV各社

ビジネス

シンガポール銀OCBC、第1四半期5%増益 保険部

ビジネス

セガサミー、米フォートレスに「シーガイア」売却

ビジネス

アップル、「iPad Pro」宣伝映像巡り謝罪 ネ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 7

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中