最新記事

人権問題

新型コロナの社会制限下で警察が人権侵害 インドネシア人権委、大統領に監督強化求める

2020年5月21日(木)19時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

マスクをせず外出していた男が警察に見つかり罰を受け、記録撮影までされる。Antana Foto Agency - REUTERS

<危機に乗じて権力をもつ者が好き勝手をし始めた>

インドネシアの首都ジャカルタなど主要都市で新型コロナウイルスの感染拡大を防止する対策として取られている一種の「都市封鎖」にあたる大規模社会制限(PSBB)。このPSBBに基づく取り締まりに関して「国家人権委員会(Komnas HAM=コムナスハム)」は、警察が過剰暴力や脅迫、不要な拘束や逮捕、犯罪の捏造など多くの人権侵害にあたる事案を引き起こしているとして国家警察に警告を発した。またジョコ・ウィドド政権に対しては、警察の監督強化を要求する事態となっている。

コムナスハムは政府機関でありながら独立組織として主に人権問題を主管。司法機関でないため強制力を伴った裁定などはできないが、提言や勧告はそれなりの重みがあり、特に同じ政府側の機関である国軍や警察といった治安当局に対しても国民の人権擁護、言論・報道の自由などの立場からこれまでも積極的に介入。政府の人権擁護の砦とされてきた。

少なくとも8件の警察の人権侵害事案

今回コムナスハムはPSBBによって自宅待機、外出や移動、帰省、公の場所での集会や飲食などが新型コロナウイルスの感染拡大につながるとして大幅に自粛、制限、禁止されるなか、現場の警察官によって市民の人権が著しく蹂躙される事案が相次いで報告されていることを明らかにした。

地元紙「ジャカルタ・ポスト」や「コンパス」などによると、5月初めまでにコムナスハムが把握している警察官による人権侵害に相当すると思われる事案が少なくとも8件あるという。

コムナスハムのアミルディン・アル・ラハブ委員長はPSBBに基づく自宅待機、外出自粛、マスク着用、公共の場での集会、飲食禁止、モスクでの集団礼拝禁止などの制限に加えて、感染拡大防止策の一環としてジョコ・ウィドド大統領が発表した「帰省禁止(4月24日以降)」などを監視パトロールする警察官による違法事案が相次いでいると指摘した。

東ヌサテンガラ州西マンガライ県では、集団で集まっていた若者に対し、警察官らがいきなり顔や頭を殴る暴力行為を働いて、脅迫まがいの口調で解散・帰宅を命じたというものだ。

アミルディン委員長によると若者らは失職するなどして生活の場がなくなり、今後のことなどを相談するために仲間と集まっていたもので、そういう説明を繰り返ししたにも関わらず、現場の警察官たちは一切弁明を聞かずに暴力を振るい続けたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中