最新記事

アメリカ経済

いつになったら経済は元に戻るのか──景気回復への長くて遠い道のり

GOODBYE YELLOW BRICK ROAD?

2020年5月21日(木)17時00分
サム・ヒル(本誌米国版コラムニスト)

magf200521_Economy2.jpg

ホワイトハウスで米経済の見通しを語るムニューシン財務長官(4月21日) DREW ANGERER/GETTY IMAGES

たとえウイルスが突然消え去ったとしても、経済活動の再開は、蛇口をひねれば水が出るようにはいかない。レストランなら、店内を清掃して、材料を再び仕入れて、店員を再雇用しなくてはならない(人材の入れ替わりが激しい業界だから、これは難航する可能性がある)。何より、もう外食しても大丈夫だと、客を安心させなくてはいけない。

もっと複雑な業種なら、事業再開にはさらに時間がかかるだろう。それを軌道に乗せるには、数日どころか数週間、あるいは数カ月かかる可能性もある。

資産運用会社グッゲンハイム・インベストメンツ最高投資責任者(CIO)のスコット・ミナードは、米経済全体がコロナ前の水準に戻るまでに4年かかると予測する。それでもこれは、かなり楽観的な見方かもしれない。リーマン・ショック後の大不況のときは、完全な回復まで51カ月かかった。新型コロナによって米経済が受けたダメージは、当時よりもはるかに大きい。

だが、株価はそんなに悪くないと言う人がいるかもしれない。実際、失業保険申請件数が急増するなかでも、4月のスタンダード&プアーズ(S&P)500種株価指数は、13%近く上昇した。だがこれは、株価に経済の実態が反映されるのに時間がかかっているからにすぎない。

ダメージが大きい分、後遺症も長引きそうだ。米調査機関の全米産業審議会のチーフエコノミスト、バート・バンアークによると、アメリカの消費者信頼感指数は、新型コロナ前は記録的な高水準にあったが、4月は大幅に低下した。

まだ不況を実感していない人も多いかもしれないが、貯蓄が底を突けばそうはいかないだろう。「2008年からの大不況のときは、消費を控えて、貯蓄に励む人が増えたことが、景気回復の足を引っ張った」と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営大学院教授のジェリー・ニッケルスバーグは言う。

回復のペースは業種によって異なるだろう。これは、人の密集が生じないようにする工夫が容易にできるかどうかによって左右されそうだ。例えば、航空会社やスポーツアリーナなど、大量の人を集めることで利益を生み出してきたビジネスモデルは苦労しそうだ。

航空会社の中には、座席を1席ずつ空ける方針を打ち出した会社もある。だが、一般に航空会社は、収支をトントンにするだけでも、80%の搭乗率を確保する必要がある。このためバフェットは、業績改善の見通しがつきにくいとして、保有する航空会社株を全て処分したという。客と対面でのやりとりが多い業種も、回復には時間がかかりそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度

ワールド

今年のユーロ圏成長率、欧州委は2月の予想維持 物価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中