最新記事

東南アジア

フン・センを批判の女性活動家襲われる 新型コロナに乗じ首相権限強化のカンボジア

2020年5月14日(木)21時25分
大塚智彦(PanAsiaNews)

独裁強化を続けるフン・セン

カンボジアは野党CNRTが2017年に実質的な解党に追い込まれ、現在はフン・セン首相の与党「カンボジア人民党(CPP)」による実質的な一党支配が続いている。

CNRTの指導者だったサム・レンシー氏は、事実上の亡命生活を送るフランス・パリから2019年11月にカンボジアに帰国しようとしたが、マレーシアなど周辺国まではたどり着いたもののカンボジアへ向かう航空機への搭乗を拒否され、最終的に帰国を阻まれた経緯がある。

カンボジアの野党関係者や人権団体によると、2019年半ば以来、政府批判を強める野党関係者やマスコミ関係者、人権、民主化運動の活動家などに対する暴力行為が増えているとされ、エアンさんで16人目となる被害者の大半は恒常的に治安当局関係者などによる監視と脅迫の対象となっているという。

自国民の安全より習近平との蜜月選ぶ

カンボジアは新型コロナウイルスの東南アジアへの拡散の際も「拡散の震源地」とされた中国・武漢に留学していた大学生や社会人に対し、フン・セン首相が「カンボジアに帰国せずに現地で中国人とともにコロナと戦え」と指示。直後に首相自ら北京を訪問して習近平国家主席と会談するなど親中ぶりを発揮している。

一方では感染拡大を恐れて受け入れ国がなくなり行き場を失った豪華客船をカンボジア南部のシアヌークビル港への寄港を認めてフン・セン首相自ら乗客を出迎えたり、プノンペンでの記者会見に参加した記者のマスク着用を禁じたりするなど独自のパフォーマンスでニュースを振りまいている。

カンボジアの新型コロナウイルス感染者は5月12日現在で感染者122人、死者は0人となっている。この数字は5月初旬以来全く変化していない。

このためカンボジアの医療水準や検査態勢などからこの感染者、死者の数値に対して疑問の声も国際社会で高まっていることも事実である。

そうしたなかでフン・セン首相は「非常事態を宣言する可能性など0.1%である」と述べ、その理由として国内の感染拡大をコントロールできているからだとしている。

こうしたことからカンボジアと国境を接するタイでは3月23日から全ての国境を閉鎖して陸路での出入りを禁止する措置を取っている。しかし最近では一部国境が再開されて物資の輸送が始まっているとの情報もあり、国境でのコロナウイルスの厳格な検査態勢が問われる事態となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中