最新記事

東南アジア

武装組織襲撃で外国人含む3人死傷 独立運動で治安悪化が続くインドネシア・パプア

2020年4月1日(水)12時31分
大塚智彦(PanAsiaNews)

パプア人武装グループによる襲撃事件が発生した「グラスベルグ鉱山」  Antara Foto Agency - REUTERS

<新型コロナウイルスの感染者が急増するなか、社会治安を不安定にする別の問題が──>

インドネシアの東端、ニューギニア島西半分を占めるパプア地方にある外国資本による大規模鉱山開発が進む地域で3月30日、パプア人武装グループによる鉱山会社への襲撃事件が発生、発砲でニュージーランド人1人が死亡、インドネシア人2が負傷した。

現地治安当局は犯行グループの追跡と掃討作戦を続けているがこれまでのところ進展はないという。

こうしたなか、地元の武装組織である「西パプア民族解放軍(TPNPB)」を名乗るグループが犯行声明を出したとの報道が流れた。

同組織は小規模ながらパプア地方で長年インドネシア治安当局と衝突を繰り返す独立武装組織「自由パプア運動(OPM)」の分派とみられている。

鉱山会社の敷地に侵入して襲撃

3月30日、パプア州ミミカ県にある米資本フリーポート・マクマホン社とインドネシアのフリーポート社が開発を進める世界有数の金・銅鉱山である「グラスベルグ鉱山」の事務所や従業員住宅がある区画に武装集団が侵入して銃撃をはじめたという。米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」のネットワークである人権問題に詳しい「ブナ―ル・ニュース」が現地から得た情報として伝えた。

治安部隊が駆けつけた時には武装グループは逃走後で、現場でニュージーランド国籍の従業員グラエム・トーマス・ウォール氏(57)の死亡が確認され、インドネシア人労働者49歳、52歳の2人が腹部、大腿部、背中などを撃たれて負傷していた。

フリーポート社では事件後速やかに当該地域に居住する従業員を別の安全な場所に避難させる措置をとったという。同社では「従業員の安全は最優先課題である」とブナ―ル・ニュースに伝えた。

現地治安当局では「犯行グループは単なる武装犯罪組織である」として独立運動組織との関係を否定するが、TPNPBの報道官と称する人物がブナ―ル・ニュースに対し「襲撃事件は我々の犯行である」と犯行声明を出した。

そのうえでTPNPB報道官と名乗る人物は「直ちに鉱山開発を中止するべきであり、中止しない場合は我々の戦いは続く」との立場を示し、鉱山開発が「地元パプアの資源を奪い、環境破壊し、地元民の人権迫害を招いている」との認識を示した。

相次ぐ衝突で治安部隊にも犠牲者

パプア地方では2019年8月17日にジャワ島スラバヤで発生したパプア人大学生に対する差別・侮辱発言をきっかけに、インドネシア全土でパプア人の不満が爆発し、抗議デモや集会が繰り広げられ、パプア地方では一部が暴徒化して多数の死者が出る事態になった。

その後もパプアでは武装組織とインドネシア軍や警察との衝突があとを絶たず、3月16日には同じミミカ県で銃撃戦が発生し、武装組織側の女性1人を含む4人が死亡する事件も起きている。

また2月20日にはパプア州インタンジャヤ県で銃撃戦が発生し、地元住民によると12歳の小学生男子、治安当局によると18歳のOPMのメンバーという男子が銃撃戦で撃たれて死亡する事件も起きている。

この事件を含む2月28日から3月9日にかけて起きた3件の銃撃戦では軍の兵士2人と警察官1人も犠牲になっており、治安当局は警戒を強化する事態になる中、今回のニュージーランド人らの死傷事件が起きてしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポーランドのトゥスク首相に脅迫、スロバキア首相暗殺

ビジネス

フォード、EV収益性改善に向けサプライヤーにコスト

ワールド

米、大麻規制緩和案を発表 医療用など使用拡大も

ビジネス

資本への悪影響など考えBBVAの買収提案を拒否=サ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中