最新記事

ロヒンギャ

ミャンマー、終わらぬロヒンギャ難民危機 積極支援する中国の野心とは

2020年1月27日(月)18時28分

見通せないミャンマーへの帰還

2017年に73万人以上がバングラデシュへ逃れたロヒンギャだが、ミャンマーには今も数十万人が残る。彼らはキャンプや村落から出られず、医療や教育サービスを受けられずにいる。

さらに、政府部隊とラカイン族の武装集団との戦闘で数万人の人々が生活の場を失っている。

こうした状況にもかかわらず、ミャンマーによる難民の帰還受け入れ準備は整っているというのが中国の立場だ。

ミャンマーとバングラデシュ両政府の当局者によると、中国は国連の役割を最小限に抑え、二国間協議による問題解決を提唱しているという。

中国は、ミャンマー、バングラデシュにおける外交努力を人道的なものと称しているが、ヤンゴンのアナリストや外交関係者は、こうした取組みはもっと大きな地政学的な狙いによるものだという。

「中国はこの地域における新たな調停役になりたいのだろう」と、米ワシントンのスティムソン・センターのユン・サン氏は言う。「主導権争いだ」

バングラデシュ領内のキャンプ地の1つ、クタパロンで難民のリーダー役を務めるノウキムさんによると、中国は単にミャンマーの公式の立場を後押ししているだけだという。ロヒンギャの要求を受け入れるようミャンマーに圧力をかけるつもりはない、というのが難民の中での一般的な受け止めだという。

難民のリーダーと中国当局者による会合を記録した動画からは、中国側がロヒンギャに対し、ミャンマーに暮らす民族として認められるなどの権利の要求を取り下げるよう求めている様子が分かる。

ミャンマー政府の主張では、ロヒンギャはインド亜大陸からのイスラム系移民であり、自国の民族集団の1つではない(国内の民族集団であれば制度上は市民権が付与される)。

ノウキムさんは、「中国側には我々の問題を簡単に解決しようという気がない」と語る。「単に世界に『我々はロヒンギャと面会した』という絵を見せたいだけだ」

空振りに終わった計画

昨年8月、中国政府はロヒンギャの帰還を本格的に推し進めようとした。ミャンマー側は帰還を認めた3000人のリストを作成したが、このうち数百人が身を隠し、試みは空振りに終わった。

バングラデシュ領内の難民キャンプの1つにいた中国の外交官は当時、誰かがロヒンギャを送り返す最初の動きを起こす必要があると語った。

ミャンマー側では当局者が待っていたが、自発的に帰還しようとする難民は1人もいなかった。ミャンマー政府によれば、その後に約400人の難民が個別に帰還しただけだという。

ロヒンギャ側によると、帰還した難民の大半はミャンマー政府に強い人脈があるという。

中国の取り組みに対しては、ミャンマー政府も一部拒否している。中国は昨年、難民にラカイン州訪問を認め、現地の状況を確認させようと提案したが、ミャンマー側は拒否した。

中国から贈られたコンテナの据え付けを請け負った地元の業者は、この仕事を続けることにほとんど意味を感じないと話す。

「2年間も誰も住んでいない。状況は変わっていない、そういうことだろう」

(翻訳:エァクレーレン)

Poppy McPherson Ruma Paul Shoon Naing

[ヤンゴン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200204issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ一時初の4万ドル台、利下げ観測が

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、4月輸入物価が約2年ぶりの

ビジネス

中国の生産能力と輸出、米での投資損なう可能性=米N

ワールド

G7、ロシア凍結資産活用巡るEUの方針支持へ 財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中