最新記事

中国

米イラン危機で漁夫の利を得る中国

TRUMP’S GIFT TO CHINA

2020年1月16日(木)16時00分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

米イランの衝突は習近平にとってチャンス NOEL CELIS-POOL-REUTERS

<中国の飛躍的な経済発展は9.11のおかげ――トランプは17年前に中東の戦争に足を踏み入れたブッシュの過ちを繰り返すのか>

ドナルド・トランプ米大統領がイラン革命防衛隊「クッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官を暗殺し、米イランの全面戦争という恐怖のシナリオがちらつくなか、現時点での勝者が1人だけいる。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席だ。

歴史は繰り返す、とは限らないが、今の状況には既視感がある。ジョージ・W・ブッシュが2001年1月に大統領に就任した際、彼のネオコン(新保守主義)の側近たちは中国をアメリカの最大かつ長期的な脅威と位置付け、「戦略的競争相手」として封じ込める作戦に出た。

2001年4月、南シナ海上空でアメリカ海軍機と中国の戦闘機が衝突し「海南島事件」が起きると、アメリカは中国からの抗議をよそに台湾への武器売却を発表。米中関係は1979年の国交正常化以来、最悪の水準にまで落ち込んだ。

全てが変わったのは2001年9月11日、アメリカが米史上最悪のテロ攻撃を受けたときだ。ブッシュ政権はアルカイダへの報復に血眼になり、遠いアジアの超大国の脅威など忘れてしまった。

9月11日からわずか3カ月後、ブッシュのゴーサインをもって中国はWTO(世界貿易機関)への加盟を果たし、中国の経済成長に拍車が掛かった。2000年に中国のGDPは約1.21兆ドルとアメリカのGDPの12%未満だったが、ブッシュ政権2期目の終わりまでには約4.6兆ドルと、アメリカの31%以上に達した。現在、中国はアメリカのGDPの約65%にまで追い上げている。

この意味では、中国の「経済的奇跡」は9.11同時多発テロのおかげだと言える。より正確には、ブッシュ政権の破滅的な対テロ戦争がもたらしたものだと。そして今から20年後には、ソレイマニ暗殺についても同じように語られているかもしれない。

ブッシュと同様、トランプは政権に就くとすぐに中国をアメリカの最大の敵と見なし、貿易戦争をはじめとする挑戦的な政策を取った。中国を封じ込めることに焦点を当て、米外交政策の従来の原則に立ち返り、超大国間の競争を復活させたのだ。

そしてトランプがソレイマニを殺害すると、全ての関心がイランへと向かった。軍事的衝突がエスカレートし続ければ、たとえ全面戦争にまでは至らなくとも、アメリカは莫大な資源を対イランに振り向け、対中政策は後回しにされるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、盗んだ1.47億ドル相当の暗号資産を洗浄=

ビジネス

米家計債務、第1四半期は17.6兆ドルに増加 延滞

ビジネス

米国株式市場=上昇、ナスダック最高値 CPIに注目

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、PPIはインフレ高止まりを
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中