最新記事

米外交

暴発寸前のイラン、厄介な北朝鮮──最も危険な2つの火薬庫にトランプはお手上げ

Trump Is Clueless on Iran and North Korea

2020年1月8日(水)16時40分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

弾劾裁判と再選が懸かった米大統領選を控えるトランプに打つ手はあるのか KEVIN LAMARQUE-REUTERS

<核・ミサイル実験の再開を示唆した北朝鮮、米軍による司令官殺害への報復を始めたイラン――有能な人材が不足するトランプ政権が世界を混乱に陥れる>

世界で最も危険な火薬庫2つが爆発寸前なのに、火消しの戦略はゼロ──2020年の幕開け、ドナルド・トランプ米大統領はそんな現状に陥っている。

今やニュースは、イランと北朝鮮をめぐる話題で再び持ち切りだ。「最大限の圧力」をかければ、イランは取引に応じる(か、うまくいけばイランの体制転換が実現する)し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との「友情」が北東アジアに平和と軍縮の新時代をもたらす。そうトランプは信じていたのに、現実は正反対だ(編集部注:米軍は1月3日、イランの革命防衛隊クッズ部隊のカセム・スレイマニ司令官を空爆で殺害)。

北朝鮮はトランプにとって最も厄介な問題で、実にいまいましい愚行の象徴だ。2018年6月、シンガポールで金と史上初の米朝首脳会談を行ってから1年半、トランプはこの残酷な独裁者を「偉大なリーダー」「約束を守る人物」と称賛し、「非核化」を実現すると疑わずにきた。

だが金は昨年12月末、首都平壌で開かれた党中央委員会総会で7時間もの演説を行い、欧米との「長く困難な闘争」の新たな路線を説明。約2年にわたって継続してきた核実験、およびICBM(大陸間弾道ミサイル)などの長距離ミサイル発射実験のモラトリアム(一時停止)を撤回する、と劇的に宣言した。

包囲された米大使館

北朝鮮は昨年、短距離弾道ミサイルを十数回発射した。国連安保理決議に違反し、アメリカの同盟国である韓国や日本の懸念を招く行為であるにもかかわらず、トランプは取り合わなかった。金が(米本土を射程に入れる)ICBMの実験を停止している限り、問題ないと見なしたからだ。

今や金がICBMの発射実験を、おそらくは核実験も再開したら、どうなるのか。トランプは反応しないと、金は考えているのだろう。弾劾裁判と米大統領選挙を控えるなか、トランプがアジアで戦争を始める見込みはないと踏んでいる可能性もある。

一方、イラクの首都バグダッドでは昨年の大みそか、イランが支援する民兵を含むデモ隊が「アメリカに死を」と叫び、米大使館を襲撃・包囲する事件が起きた。

明けて1月1日には、イラク政府がイスラム教シーア派武装組織カタイブ・ヒズボラの指導部に圧力をかけたことを受けて、デモ隊は撤退。イランの影響力の衰えを示す展開だとトランプは受け止めたらしく、「自由を求め、イランによる支配を望まないイラクの何百万人もの人々へ。あなたたちの時が来た!」とツイートした。

実に無知な見方だ。イラクの政治に対するイランの影響力は、2003年のイラク戦争直後から確固としたものになっている。その影響力は今回の米大使館包囲のきっかけとなった出来事によって、さらに強固になったのではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中