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中国で捕らわれた外国人を待つ地獄の日々

A Cruel Fate in China

2019年12月17日(火)18時20分
ピーター・ハンフリー(調査会社チャイナワイズ創業者)

海外メディアに公開された北京の拘置所の取調室(2012年) AP/AFLO

<ファーウェイCFO逮捕の報復でカナダ人が拘束されて1年、中国で2年間拘束された外国人男性が獄中生活を証言>

2人のカナダ人が中国の秘密警察に身柄を拘束され、悲惨な環境で隔絶された密室に閉じ込められてから、去る12月10日で1年が過ぎた。

元外交官で紛争緩和コンサルタントのマイケル・コブリグと、北朝鮮への業務渡航を手配するコンサルタントのマイケル・スパバは1年前のこの日、滞在先の中国で身柄を拘束された。スパイ活動の容疑とされているが、事実上の人質とみていい。中国共産党と密接な関係を持つIT企業ファーウェイの孟晩舟(モン・ワンチョウ)副会長兼CFO(最高財務責任者)が、カナダで詐欺容疑で逮捕されたことへの報復だ。

スパイ容疑で逮捕したのなら、そして逮捕を正当化するだけの証拠があるのなら、速やかに起訴して裁判にかければいい。そうしないのは、証拠がないからだ。この2人が犯罪の容疑者ではなく、外交上の人質だからだ。

法治国家のカナダで逮捕されたファーウェイの孟は保釈を認められ、今は西海岸のバンクーバーにある1500万ドルの豪邸で優雅に、自由に過ごしている。しかし中国で逮捕された2人のカナダ人は、無法地帯の収容所で拷問に等しい日々を送っている。

尊厳も抵抗意欲も奪われ

中国で不意に身柄を拘束された人がどんな状況に置かれるかを、筆者は証言できる立場にある。妻と私は2013年から15年までの2年間、M&A絡みの企業情報を不法に入手したという容疑で収監されていたからだ。容疑は身に覚えのないものだったが、この収容所体験は私の骨身に染みている。

中国では、起訴前の身柄拘束が脅迫の手段として使われており、事実上の拷問となっている。逮捕されたら拘置所に入れられるが、そこでは人間の尊厳も抵抗意欲も奪われて、いわゆる「自白」を強いられる。もちろん、そんな状況で罪を認めた供述が本物のわけはない。

以下ではまず、「そんな状況」がいかなるものかを、私自身の23カ月に及ぶ経験と、過去に同様な体験をし、最近になって解放された人々の話を基に紹介したい。

被疑者を慌てさせ、恐怖心を抱かせるために、まずは弁護士の同席も許されないまま、最低でも1日以上の尋問を受けた後、疲れ切った状態で雑居房に(場合によっては独房に)放り込まれる。

どちらであれ、部屋は狭くて、ベッドも椅子も家具もない。一日中、床に座るかしゃがんでいるかで、結果として関節や筋肉は痛み衰えていく。支給されるシーツは薄く、冷え冷えした硬い木の床で眠らなければならない。用足しは隅にある床の穴でする。蛇口をひねっても、出るのは冷水だけ。夏は暑く、冬は底冷えする。しかも廊下の窓は開いたままだから、冬になると風が吹き込んで屋外よりも寒くなる。夏の暑さもひどいが、もちろんエアコンはない。

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