最新記事

BOOKS

「私はエリートだから農協に落ち着いたのは忸怩たる思い」団塊ジュニアのしくじり人生

2019年12月2日(月)17時30分
印南敦史(作家、書評家)

被害者意識を身にまとっているだけでは何も解決しない

ここで挙げた3人は、あくまで一例に過ぎない。ずいぶん屈折しているなとも感じるが、自分の意思とは裏腹に「選ばれた世代」の一員となってしまったことは事実なのだから仕方がないのかもしれない。さまざまな境遇の中で、不器用にもがいているのだ。

つまり彼らはある種の被害者なのだが、その被害者にも考えるべきことがあると著者は指摘している。重要なのはこの点だ。


 氷河期世代と嘆くのも、氷河期のせいにするのも四十代となるともはや甘えでしかない。私達はすでにおじさんおばさんであり、子の父であり母であり、そうでなくとも社会を、家庭を、自身を引っ張っていかなければならない年齢である。それなのにいまだに小中学生気分で子供じみた趣味趣向に溺れ、子供じみた競争意識ばかりにうつつを抜かし、もはや引退したはずの団塊世代に八つ当たりを繰り返す駄々っ子おじさんとおばさんのままである。
 繰り返すが我々はもう四十代だ、もう残りの人生は半分あるかないかなのだ。時間はあるようでない、ないことをまず自覚しよう。(203ページ「おわりに――何者にもなれなかった私たち」より)

もちろん被害者ではあるのだろうが、被害者意識を身にまとっているだけでは何も解決しない。そもそも時間がなさ過ぎる。だからこそ、今からでも意識を変革すべきだという考え方である。

そして氷河期世代ではない人々にも、すべきことがあるだろう。彼らの現状を他人事として捉えず、自分事として受け止めることだ。

なぜなら他の世代の人々も、"たまたま"その世代から外れただけで、決して部外者ではないから。彼らと同じ目線で社会を見つめ直さない限り、何も解決することはない。自分の人生が時代に翻弄されることは、誰にでも、そしてこれからも、起こり得るのだ。


ドキュメント しくじり世代――
 団塊ジュニア・氷河期中年15人の失敗白書
 日野百草 著
 第三書館

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。

20191210issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月10日号(12月3日発売)は「仮想通貨ウォーズ」特集。ビットコイン、リブラ、デジタル人民元......三つ巴の覇権争いを制するのは誰か? 仮想通貨バブルの崩壊後その信用力や規制がどう変わったかを探り、経済の未来を決する頂上決戦の行方を占う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アストラゼネカ、30年までに売上高800億ドル 2

ビジネス

正のインフレ率での賃金・物価上昇、政策余地広がる=

ビジネス

IMF、英国の総選挙前減税に警鐘 成長予想は引き上

ワールド

シンガポール航空機かバンコクに緊急着陸、乱気流で乗
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中