最新記事

中東

米制裁で揺らぐイランの中東覇権──支配下のイラクやレバノンでも反イラン暴動

Trump Sanctions Weaken Tehran as Protests Escalate In Iran, Iraq, Lebanon

2019年11月20日(水)18時25分
ジョナサン・ブローダー

バグダッドで行われた反政府デモ(2019年11月14日) al-Marjani REUTERS

<アメリカの経済制裁で経済的苦境に陥ったイランばかりか、その影響下にあったイラク、レバノンでもイランへの憎悪の声が広がっている>

ドナルド・トランプのイラン制裁は効果をあげていると言っていいのか? 制裁によるイラン経済の疲弊は、国内外で混乱を生み出し、イラン政府を弱体化させている。

ロンドンに本拠を置く人権団体アムネスティは11月19日、イランの燃料価格引き上げに抗議するデモで、少なくとも106人がイランの精鋭「イスラム革命防衛隊」に殺害されたこと発表した。さらに情報が明らかになれば実際の死者数はさらに増え、死者は200人にのぼる可能性もあるという。

ガソリン価格を突如50%も上げたことに対する抗議デモは18日に始まったが、イラン政府はいまだに死傷者数を発表していない。

イラン国内の報道ではこのデモは、イランの核開発と親イラン武装勢力への支援を停止させたいアメリカの経済制裁に対する抗議、ということになっている。経済苦に怒った国民が、首都テヘランをはじめ主要都市で店を破壊し、車を燃やし、掠奪を行っているというのだ。

アムネスティが死傷者数を発表する前日、イスラム革命防衛隊はデモ隊に対し「断固たる行動」をとると警告。大規模な弾圧を行うことを匂わせていた。

一方、強硬派のカハン・デイリー紙は、19日に政府寄りの司法機関が、デモの指導者には絞首刑がふさわしいと言ったと報じた。

失敗の責任はイランに

イランの影響力が浸透しているイラクとレバノンでも、反政府抗議活動が広がっている。

イラクは過去6週間、暴力的な街頭デモと銃撃で混乱のきわみにある。アデル・アブドルマフディ政権の腐敗と縁故主義、公共サービスの不備に憤慨する暴徒は、首相の追放を要求している。

だがデモ参加者の怒りの矛先は隣国のイランだ。デモ隊はイランを、マフディ政府を背後で操る黒幕とみなし、政府の失敗の最終的な責任はイランにあると考えている。

「出ていけ、出ていけ、イラン!」と唱和しつつ、デモ隊は聖なるシーア派の都市カルバラにあるイラン領事館に放火し、イランの旗を燃やした。

そんなデモ隊に反撃したのは、イランが武器と訓練と資金を提供するイラクの民兵集団だ。これこそがイラクにおけるイランの影響力を明確に表す証拠だ。民兵集団はデモ隊に発砲し、これまでに300人以上が死亡、約1万5000人が負傷した。

ニューヨーク・タイムズと米ニュースサイト「ザ・インターセプト」が入手した機密文書は、イランがイラク情勢に深く介入していたことを証明している。

<参考記事>イランで逮捕された「ゾンビ女」の素顔
<参考記事>米イラン戦争が現実になる日

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中