最新記事

中国

中国オフショア人民元戦略:グレーターベイエリアにマカオ証券取引所

2019年10月30日(水)13時15分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

――もう一つ重要なことは、実はこれこそが最も重要なのですが、海外諸国に対して人民元による投資チャンネルを増やしてあげる役割を果たし、人民元の「使用価値」を高めることに利するということです。これこそは即ち、人民元の国際化を促進させることにつながるのです。オフショア人民元の価値を高めるには、そのマーケットを広げていかなければなりませんから。

――最後に一つ。実はこれは、中国にとっての対米戦略ゲームの中で、「金融カード」という、決定的なカードを1枚増やしたということに相当するのです。

グレーターベイエリアとオフショア人民元戦略

これは衝撃的なメールだった。

しかし思い起こせば2003年、香港で基本法第23条の中にある国家安全条例制定を巡って激しいデモが起こり、遂に条例の制定を撤廃させただけでなく、当時の香港の行政長官(董建華)を退任にまで追いやったことがあった。

その同じ年に中国(北京政府)はマカオを手なずけて「中国・ポルトガル語圏諸国経済貿易協力フォーラム」を設立し、ポルトガル語を使用するアンゴラ、ブラジル、カーボベルデ、ギニアビサウ、モザンビーク、ポルトガル、東ティモールの7カ国が参加する形で、経済・貿易協力の強化を図ってきた。

2016年には李克強がマカオを訪問して当該フォーラムに出席し今年4月にはポルトガルの大統領が訪中するなどポルトガルとの連携を深めている。グテーレス氏(元ポルトガル首相)を国連事務総長に押し上げるため動いたのも中国だ。

ということは、北京の頭には、「香港は民主運動などの抗議デモが多いから、マカオを中心に世界貿易の窓口を創ろう」という戦略が、2003年からあったということができるのかもしれない。

それが今年の香港デモの最中に発表された深センの先行モデル地区指定とグレーターベイエリアを抱き合わせた戦略の発表であったと解釈すべきであった。

現に今年10月12日、広東省の地方金融監督管理局の何暁軍局長は、岭南フォーラムで次のように述べている。

――マカオ証券取引所設立の案は、すでに中央に報告済みだ。マカオ証券取引所がオフショア人民元の市場として、ナスダックのような役割を果たしていくことを希望している。マカオは既に、オフショア人民元の証券市場としての第一歩を踏み出しているのだ。

――今年2月、中共中央国務院は「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)発展計画綱要」を発表したが、まさにその中で「特色ある金融産業を大々的に発展させよ」と明示しており、かつ「マカオに人民元による取引が出来るようなオフショア人民元プラットフォームを形成せよ」が強調している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英シェル株主は気候対策強化案に反対を、グラスルイス

ワールド

中国主席、5年ぶり訪欧開始 中仏関係「国際社会のモ

ワールド

ガザ休戦交渉難航、ハマス代表団がカイロ離れる 7日

ワールド

米、イスラエルへ弾薬供与停止 戦闘開始後初=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中