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保育無償化では進まない保育士の待遇改善

2019年10月2日(水)16時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

保育士の待遇の良し悪しは、保育士の職場定着とも相関している。保育士の平均勤続年数を見ると、保育士の年収の相対水準が最も高い青森県は12.4年だが、最も低い大阪府は5.0年でしかない。<図2>は、47都道府県のデータによる相関図だ。

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横軸は保育士の待遇、縦軸は職場定着の指標だが、両者の間にはプラスの相関関係が見受けられる。頷ける結果だ。

保育の無償化の恩恵は、少ない枠に入れた世帯にしか及ばない。これに対して、費用負担は求めるものの受け入れ枠を増やすことは、夫婦共稼ぎの世帯を増やし、幅広い層にベネフィットがもたらされる。無償にしても入れなければどうしようもない。増税で得られた財源は、保育士の待遇改善に充てるべきだったのではないか。東京都内23区の統計で見ると、子育て期の既婚女性のフルタイム就業率と出生率はプラスの相関関係にある。夫婦共稼ぎの効果はあるようだ。

保育の無償化は「富裕層の優遇」という声もある。入園選考は夫婦とも正社員の世帯が有利だが、首尾よくわが子を入れたら費用はタダ。それで余裕ができ、もっと子どもを持つことも考えられるようになる。こういう構図が強まるかもしれない。子を持てるかどうかが、経済力に規定されるようになる。

こうした「意図せざる結果」、政策の逆機能が生じないとも限らない。状況を評価し、政策の方向を見直す柔軟さが常に求められる。

資料:厚労省『賃金構造基本統計』2018年

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