最新記事

ブラジル

ブラジルのトランプがアマゾンを燃やす暴君に

2019年8月26日(月)16時10分
エリオット・ハノン

UESLEI MARCELINO-REUTERS

<保護政策を覆したボルソナロ大統領によって世界最大の熱帯雨林は深刻で取り返しがつかない事態へと向かいつつある>

ブラジルのアマゾン川流域が驚くべき勢いで燃え続けている。

ブラジル国立宇宙研究所(INPE)によれば、今年に入って確認された火災は7万2843件。昨年同期比で83%も増え、13年に火災の記録を取り始めて以来最多となる見込みだ。火災が突然増えたのは、環境に配慮しない右派のボルソナロ大統領のせいだ、と考えられている。

煙の被害は深刻で、遠く離れたサンパウロ近郊を1時間も暗闇に陥れた。アマゾン流域には300万種の動植物が生息し、100万人の人々が住む。今年1月に政権を握ると、ポピュリストのボルソナロはさっそく世界最大の熱帯雨林を保護するこれまでの政策を転換した。

BBCによれば、「ボルソナロは従来の厳格な保護政策と罰金システムを批判。結果、違法伐採された木材の没収量と環境犯罪の有罪判決の数が減った」という。さらに「ボルソナロは8月2日、INPEが森林破壊の規模について偽り、政府を弱体化させようとしているとして責任者を解任した」と報じた。INPEが6月、森林伐採が前年同月比で88%増加したというデータを公表した後のことだ。

最新の衛星画像によれば、8月15日以来アマゾン流域を中心にブラジル国内で新たに9507件の森林火災が発見された。特に農業開発が激化し環境破壊が続くマットグロッソ州とパラ州で増えている。森林火災は乾期の発生が一般的だが、牧場を違法に開発する農民によっても意図的に起こされている。

ボルソナロは当初、農民が野焼きする季節だと主張し、最新データによる警告を無視していた。だが世界中からの反発の声はさすがに無視できなかったのか、23日には消火作業に軍を投入すると決めた。ブラジルのトランプと呼ばれるポピュリスト大統領も、事の重大さにやっと気付いたらしい。

©2019 The Slate Group

<本誌2019年9月3日号掲載>

【関連記事】「ブラジルのトランプ」極右候補が大統領に選ばれた理由
【関連記事】環境問題と貧困は「1日おきのうんち」で解決する ブラジルの暴言大統領

20190903issue_cover200.jpg
※9月3日号(8月27日発売)は、「中国電脳攻撃」特集。台湾、香港、チベット......。サイバー空間を思いのままに操り、各地で選挙干渉や情報操作を繰り返す中国。SNSを使った攻撃の手口とは? 次に狙われる標的はどこか? そして、急成長する中国の民間軍事会社とは?

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退

ビジネス

米下院、貧困や気候問題の支出削減法案 民主党反対 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中