最新記事

セキュリティ

米中対立の発火はポーランドから ファーウェイ「スパイ」事件の全貌

2019年7月11日(木)12時32分

今年1月の冷え込みの厳しい朝、ポーランドの国内公安機関(ISA)がワルシャワのアパートの一室に立ち入った。彼らは写真や電子機器を没収、アパートに住む外国人ビジネスマンを逮捕した。写真はワルシャワ中心部に掲げられたファーウェイのロゴ。6月撮影(2019年 ロイター/Kacper Pempel)

今年1月の冷え込みの厳しい朝、ポーランドの国内公安機関(ISA)がワルシャワのアパートの一室に立ち入った。彼らは写真や電子機器を没収、アパートに住む外国人ビジネスマンを逮捕した。

ポーランド語に堪能な元外交官でもあるこのビジネスマンに対する容疑は、世間を驚かせた。ポーランドの元安全保障当局者と協力し、ある国のためにスパイ活動を行った、というものだった。

まるで冷戦時代のスパイ小説、その21世紀版のようだが、相手はかつて敵だった米国でも、ソ連時代の盟主ロシアでもなく、中国だった。

ビジネスマンは中国人で、世界最大の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)の営業担当者。そして、同じ日に逮捕された協力者とされるポーランドの元当局者は、一兵卒ではなくサイバーセキュリティを専門とする幹部だった。

この逮捕によって、中国を相手にした米国の「新冷戦」の新たな戦端が開かれた。

収監先から文書で回答

米国は、次世代高速通信規格「5G」の導入に当たってファーウェイ機器を使用しないよう同盟国に働きかけており、ファーウェイは新冷戦の中心的な存在となっている。

トランプ米政権は5月、国内通信網にファーウエイ機器を使用することを禁じ、米企業が同社に製品を販売することを規制した。米政府は、ファーウェイが中国政府の支配下にあるとみて、同社の5G技術がスパイ行為や重要インフラの妨害などに悪用されかねないと懸念している。ファーウエイ側は、こうした指摘を否定している。

6月末に大阪市で開催された20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)で、トランプ氏はファーウェイへの販売規制を緩和する方針を示したが、国内通信網からファーウェイを排除する決定は覆さなかった。

ポーランドの検察当局は逮捕を公表して以降、事件の詳細はほとんど明らかにしておらず、機密扱いにしている。

だが、疑惑の渦中にある中国人ビジネスマンの王偉晶容疑者(37)は、ロイターの質問に対して収監先から長文の回答を寄せ、無実を主張した。

「私は全く関与したことがないことについて誤った追及を受け、家族から引き離されている。言うまでもなく、社員にスパイ容疑をかければファーウェイをポーランドや他の国から追い出す格好の口実となる」と、王容疑者は主張した。

担当弁護士のバルトゥオミ・ヤンコフスキー氏を通じて寄せられたこの回答には、事件について、また、同時に逮捕されたポーランド人のピョートル・ドゥルバイヴォ容疑者との関係について、これまで明らかになっていなかった詳細が含まれていた。

例えば、王容疑者はドゥルバイヴォ容疑者のことを、おそらくポーランド人の中で一番の親友と説明。ポーランド政府当局者が深センにあるファーウェイ本社を訪問した2013年、10日間の休暇を取って中国を訪れた2018年夏を含め、少なくとも3度、中国でともに時間を過ごしたことを明らかにした。また、逮捕後に王容疑者を解雇したファーウェイが、その後も一定の支援を提供しているとした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、一部受刑者の軍入隊を許可 人員増強で

ワールド

北東部ハリコフ州「激しい戦闘」迫る、ウクライナ軍総

ビジネス

NY連銀、新たなサプライチェーン関連指数発表へ 2

ビジネス

米CB景気先行指数、4月は0.6%低下 予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中