最新記事

日本社会

地方組織が人手不足に陥る理由 「4つの矛盾」が優秀人材を辞めさせる

2019年7月4日(木)16時30分
木下 斉 (まちビジネス事業家) *東洋経済オンラインから転載

しかし、こうした状態でも、変化を生み出し始めている地方の取り組みが多数あります。民間だけではありません。

ご紹介したいのが、熱海での民間の取り組みです。昨年から地元の中小企業が以下のような画期的な募集をしたのです。

すなわち「今ある仕事の人手不足解消策ではなく有効に活用できていない資産を使って新たな事業を作ってほしい」「やりたいけれどもこれまで地元の人材ではできなかった広報などの展開をしたい」、ついては「副業としての応募も歓迎」と募集したところ、熱海の人手不足に悩む企業にあっという間に100人ほどの応募が集まりました。

ほとんどのケースで話はすぐにまとまり、応募者は現地で大活躍しています。さらに今年は独自の募集サイトを立ち上げ、副業をしている応募者を積極的に地元中小企業とマッチング、新たな事業の創出を狙おうとしています。

自治体の人材争奪戦が起き「公務員戦国時代」に

さらに、自治体でも大きな変化が見られます。例えば、四條畷市(大阪府)では、東修平市長が2017年の当選後、すぐに全国に女性副市長を公募しました。その結果、リクルート「SUUMO」の元編集長の林有理氏を採用。林さんはその後、大活躍されています。

同市では今年さらに全7職種にわたる中途採用の募集に踏み切り、なんと1100人以上がエントリーしています。テレビ会議を用いた面接を行うなど、徹底的に応募する側の立場に立った採用手法は非常に好評です。しかも、同市は中途採用の本格化と同時に報酬制度や職種の権限も適宜見直しながら、優秀な人材を獲得する方針です。東市長は「これからは自治体の人材獲得が激化し、公務員戦国時代になる」と語っています。

こうした例でおわかりのとおり、従来とは異なる地方の価値を創り出すために、新たな雇用形態を採用したり、募集方法を抜本的に変えたりしたところには、これだけ多数の応募があるわけです。「人手不足だから、どこもかしこも人が集まらない」ということではなく、工夫によっては人が集まるわけです。

結局、「人が来ない、若者が悪い」などと文句を言っているだけで、過去のやり方を変えようとしない組織や地域からは人が去り、今の時代に合わせ、働く側に沿った採用・雇用を推進すれば人は集まります。

そもそもとして、地方に必要なのは人口ではありません。「安く、たくさんが普通で、万年赤字体質」といった既存の産業構造を変え、「稼ぐ地域」に変化を遂げることが何よりも重要です。そのためには、従来の仕事をそのまま次の世代に押し付けていては、地域の持続可能性は担保されません。「人口1人当たりの所得」を増やしていく先にこそ、少ない人口であっても地域は存続します。

地方のマネジメント層の方々は、単に人手不足を嘆くだけでは失格です。地方でも多くの人を集める職場に学ぶことが、多々あるのではないでしょうか。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中