最新記事

ゴミ問題

ゴミが溢れかえるエベレスト、ついに中国側ベースキャンプへの一般客の立入規制始まる

2019年2月28日(木)16時50分
内村コースケ

山岳民族の暮らしと共にあるバーミヤンの山岳地帯=2001年、アフガニスタンにて(内村コースケ撮影)

<エベレストのごみ問題に対処するため、チベット側を管轄する中国当局が、入山許可証を持たない一般観光客のベースキャンプへの立入規制を始めた。近年はエベレスト登山・観光の人気の高まりにより、大量のごみがエレベスト周辺に増え続け、深刻な環境問題となっている。一般的な不燃ごみのほか、登山者が遺棄した登山道具、彼らの糞便、さらには山頂付近で命を落とした者の遺体までもが、冷凍保存状態で山積しているのだ。ついに、「人」というごみの出どころそのものを規制する所まで、事態は深刻化している>

年間で合計8万人以上が訪れる世界最高峰

エベレスト登山と言えば、南側のネパールから入るルートがポピュラーだが、近年はチベット側からの入山者も増えている。ネパール側のベースキャンプへ行くには2週間ほどかけて徒歩で行くか、ヘリコプターを使うしか方法がないが、標高5200mのチベット側ベースキャンプへは、車でアプローチすることができる。そのため、登山者だけでなく、ベースキャンプからエベレストを眺めるために訪れる一般の観光客やベースキャンプ周辺を歩くトレッキング目的の登山者が多い。

中国登山協会によれば、最新の統計(2015年)では、4万人がチベット側ベースキャンプを訪れた。ネパール側へは、2016-17年のシーズンに、過去最高の4万5千人が訪れた。いずれの訪問者も年々増加している。訪問者が増えればごみが増えるのが道理だ。チベット当局のウェブサイトによれば、昨春行なわれた3回のクリーン作戦により、8トンのごみが集められたが、焼け石に水だという。

中国国営新華社通信などの報道によれば、今回導入された規制は、山頂を目指す入山許可証を持たない一般観光客やトレッキング客のベースキャンプへの入山を禁止するというもの。ベースキャンプから200mほど下ったロンブク寺(標高5,000m)までは行き来できるが、そこから上へは入れない。さらに、登山者の入山許可も年間300人に制限する。

登山者の質の低下や温暖化もごみ増加の要因

BBCは、「山のように増え続けるごみ問題に対処するため、当局が異例の動きに出た」と、規制開始を伝えている。確かに、観光収入の大幅減につながりかねないこの決断は、ごみ問題の深刻さを浮き彫りにするものだ。一方、中国のソーシャルメディアには、規制実施のニュースに対して、エベレスト観光ができなくなることや経済的観点から、反発が広がった。ベースキャンプが恒久的に閉鎖されたという"デマ"に対し、国営メディアが当局の話として、あくまで当面の措置だと火消しに回るほどだったという。

ごみが増えている背景には、訪問者の絶対数の増加と共に、その「質」の低下も関係しているようだ。AFPの取材に答えたベテラン登山家のダミアン・ベネガスさんは、以前は大半の登山者が個人装備を自分で運んでいたが、経験の浅い者もやってくる今は、多くの者が全ての装備をシェルパ(現地人登山ガイド)に運んでもらうと指摘する。登山客はほぼ空身で歩くのが精一杯、シェルパは客の個人装備品だけで手一杯なので、誰もごみを持ち帰らないという悪循環が起きているのだという。

気候変動の影響もあるようだ。温暖化の影響で氷河の融解が進んでいる影響で、「エドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイが初のエベレスト登頂に成功した65年前から溜まり続けているごみが露出するようになっている」(AFP)という。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

金融デジタル化、新たなリスクの源に バーゼル委員会

ワールド

中ロ首脳会談、対米で結束 包括的戦略パートナー深化

ワールド

漁師に支援物資供給、フィリピン民間船団 南シナ海の

ビジネス

米、両面型太陽光パネル輸入関税免除を終了 国内産業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 8

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 9

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中