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インドネシア

森を再生し森と共存を目指すインドネシアの挑戦 5年で1万本の植林活動

2018年9月17日(月)12時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

パルプ紙製造会社APPがインドネシア・リアウ州に設置している「植林研究所」で育てられる苗木(撮影=筆者)

<オランウータンのような貴重な野生生物を育むインドネシアの森林。紙製品の原料として伐採されることの問題がよく報じられるが、自然林から100%植林伐採へとシフトする動きも出ている──>

2018年9月7日、インドネシア・スマトラ島のリアウ州ランタウ・ブルトウァにある植林地でインドネシア人、日本人による自生種フタバガキの苗木を植樹するイベントが行われた。これは世界最大級のインドネシアのパルプ紙製造会社「アジア・パルプ&ペーパー(APP)」とAPPジャパンによる森林再生プロジェクトの一環で、今年で5年目。毎年日本から植樹ボランティアが多数参加して、インドネシアの製紙事業と自然の共存・再生を学ぶ環境ツアーである。

日本・インドネシア外交関係樹立60周年にあたる2018年、官民を挙げての多くの友好イベントが開催されているなか、APPジャパンは7月に東京・日比谷公園で開かれた日本インドネシア・フェスティバルにも参加しその活動を内外にアピールするなど積極的な活動を継続している。

インドネシアはその広大な熱帯雨林の存在、安価な労働力の提供、そしてアカシア、ユーカリなど成長が早い木材などの好条件が、石油や天然ガスといった天然エネルギーの輸出による外貨獲得に代わる新たな産業として1990年代から急成長した。

1988年には全土に広がる約5500万ヘクタールの森林の538区画を政府が国内外企業に伐採権という形で配分し、これがインドネシアの紙・パルプ産業の基盤となる。

インドネシア企業の中核となったのがシナルマス・グループでAPPは同グループ傘下の企業として同国での紙パルプ生産をけん引してきた経緯がある。

一方の日本は既存の王子、日本、大王各製紙会社などにより国内需要を賄ってきたが、新聞や雑誌、書籍の電子化はオフィスなどでのペーパーレス化が進み、需要は頭打ちとなっているという。

日本製紙連合会がまとめた2018年の紙・板紙内需試算によると、今年の需要は前年実績を0.9%下回る2638万4000トンと8年連続のマイナスとしている。

こうしたなか、インドネシアのAPPは2013年に自然林の伐採を一切中止して植林木による原資確保に踏み切った。地球環境保全や森林保護、さらに森林再生を重視する方針は木材を原料とせざるを得ない紙・パルプ企業の新たなあり方を示している。

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