最新記事

メディア

『新潮45』休刊の背景──貧すれば鈍する名門雑誌の最期

2018年9月28日(金)16時00分
古谷経衡(文筆家)

そして最終号となった2018年10月号(上記3年後)の主要連載陣は、鹿島茂(仏文学者)『二本史』、瀬戸晴海(前厚生労働省麻薬取締部部長)『マトリ』、古市憲寿(社会学者)『ニッポン全史』、稲泉連(ノンフィクション作家)『廃炉という仕事』、福田和也(評論家)『総理と女たち』、泉麻人(コラムニスト)『トリロー』、適菜収(作家)『パンとサーカス』、保阪正康(作家)『昭和史の人間学』、片山杜秀(評論家)『水戸学の世界地図』、佐伯啓思(社会思想家)『反・幸福論』と続き、ヤマザキマリの連載漫画『プリニウス』は第53回まで伸張している。

今回の『新潮45』休刊で、同誌は「ヘイト雑誌だ」「ネトウヨ雑誌だ」などと散々誹謗があるが、この連載陣をみて「ネット右翼的である」と思う人はいないだろう。

2018年8月号の杉田水脈代議士の寄稿『「LGBT」支援の度が過ぎる』と併せて、今回新潮社の代表取締役が声明で述べたように、


「新潮45」の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」のある部分に関しては、それらを鑑みても、あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現が見受けられました。

出典:新潮社公式サイト

というの部分の、「ある部分」が自称文藝評論家の小川榮太郎による『政治は「生きづらさ」という主観を救えない』を指すことが明らかなように、この雑誌は特集や特別企画部分では極めてネット右翼に迎合し、当初から炎上上等の、エッヂの尖った姿勢を鮮明にしながら、雑誌後半を占めるの連載陣に至っては、「至極穏健な」寄稿で占められているという、極端な二重構造を有しているのだ。

なぜ『新潮45』の二重構造は生まれたのか

なぜ『新潮45』は、雑誌の半分がネット右翼迎合、もう半分は穏健という二重構造を内包する雑誌になったのか。それは、端的に、


『『新潮45』の実売数は1万部前後が続いており、雑誌単体では赤字という状況があった。部数の落ち込みを回復したいという焦り』

出典:(Abema TIMES)『新潮45』は「限りなく廃刊に近い休刊」

という報道に全てが集約されている。部数減少の回復を願う一心で、特集と特別企画はネット右翼に迎合的とする。しかし雑誌全体をその路線にしてしまうと、既存の穏健な讀物を好む定期購読者や読者が離れてしまう、というジレンマを抱えながら突進を繰り返した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪中銀、政策金利据え置き 物価上昇圧力を警戒

ワールド

アルツハイマー病、リスク遺伝子2つでほぼ確実に発症

ワールド

中国海洋石油の元幹部を調査、重大な規律違反疑いで当

ワールド

パレスチナ国連加盟決議案、総会で10日採決の可能性
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中