最新記事

北朝鮮

北の「日本メディア外し」は日本への歪んだ求愛

2018年5月16日(水)17時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

第3回南北首脳会談で 「板門店宣言」を発表する金正恩委員長 Korea Summit Press Pool/Reuters

北朝鮮は非核化の証拠に坑道爆破の現場を「日本を外した」関係国に公開報道すると発表。この「日本外し」は日朝首脳会談に向けた条件闘争の一環で、日本への期待感の裏返しと見るべきだろう。

北朝鮮、非核化アピールのため報道公開――日本外し

北朝鮮の朝鮮中央通信は、5月12日、豊渓里(プンゲリ)の核実験場を廃棄する式典を、23~25日の間に実施すると発表した。坑道の爆破と入口の閉鎖、および地上の設備や施設の撤去などの現場を、中米露英韓5ヵ国のメディアに公開するとのこと。ここに「日本」がないことが注目される。

もし関係国というのであれば、六者会談のメンバー国である「中米露日韓と北朝鮮」の中の「中米露日韓」のメディアに対して公開すると考えるのが一般的だろうが、「日本」の代わりに「英国」が入った。

英国は北朝鮮と国交があり、かつリビアにおける核放棄を実施させる際に、米英が調査して関連施設を国外に運び出して解体廃棄するという作業に当たった国である。その意味で英国が入るのは理解できないではない。

しかし北朝鮮は、「日本が拉致問題を提起することによって朝鮮半島の平和的な対話路線を阻害しようとしている」と言ったり、「日本は1億年経っても北朝鮮の神聖なる土地を踏むことはできないだろう」といった趣旨のことを言ったりなど、日本を酷評する言動を繰り返している。

その上での「日本メディアの除外」は、明らかに「日本外し」を意識していると見るのが妥当だろう。

日本外しは日本への「歪んだ求愛」

この「日本外し」は、明らかに日本への「歪んだ求愛」とみなすことができる。

なぜならこれまで何度も書いてきたように、北朝鮮は経済的に中国に呑みこまれたくないと思っているからだ。朝鮮半島はその長い歴史において、中国の清王朝時代まで中国に対する朝貢外交によって成立してきたような国だ。

『史記』などによると「朝鮮」という名称は紀元前4世紀辺りからあったとされているが、中には「東方(=朝)の鮮卑」という言葉から「朝鮮」と呼ぶようになったという説もあるほど、朝鮮の中国への隷属性は長きにわたって続いてきたことだけは確かだ。

日本による統治は1910年から1945年。いわゆる「日帝36年の恨み」はここから来ている。アメリカによる韓国の統治は、大韓民国誕生と朝鮮戦争休戦協定などの節目を大雑把に見ると、1948年から今日までとなり、概ね70年。日米同盟を考えると日本への恨みは「36年+70年=106年」となる。

そこで金正恩政権では「日米は100年の宿敵、中国は1000年の宿敵」という言葉が出てきたものと考えられる。

したがって、その中国には唯一の軍事同盟国として対米牽制の砦にはなっていてほしいが、決して経済的にまで中国に依存しきって中国の支配下に入りたくはない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中