最新記事

欧州

仏メーデー行進で大暴れした新左翼集団「ブラック・ブロック」とは何者か

2018年5月8日(火)17時20分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

その目的はあくまでも破壊をすることだ。はじめから催涙ガスよけのスキーのゴーグルや水泳用のメガネをかけ、指紋を残さぬように手袋をしている。

ただし彼らによれば「決して手当たり次第壊しているわけではない」。あくまでも反資本主義運動の左翼を自負している。

たしかにメーデーに襲撃されたのも、マクドナルドとルノーとBMWのディーラーだった。マクドナルドとディーラーの間はピッザリアやカフェ、中華レストランなど10軒ぐらい並んでいるのだが、とくに被害はなかった。

現代資本主義の象徴としてマクドナルドを襲撃する運動はフランスでは前からある。しかし、その活動家たちは顔を出し、まとまった政治運動として主張をしていた。だが、ブラック・ブロックはあくまでも匿名でバラバラだ。

黒はアナーキストの色だが、べつに志を持って無政府革命をしようというのではない。ひと暴れし、終われば着替えて日常生活に戻る。ある意味、欲求不満の発散である。

政治活動もするが、闇に隠れて次の襲撃を準備するのではなく、何食わぬ顔をして、普通のエコロジーやフェミニズム、学生運動などをおこなう。

銃や爆弾は持たない

前出の報告書によれば、ブラック・ブロックの起源は1980年代に西ベルリンで市当局が空き建物を不法占拠して住んでいた若者たちを排除したときに、黒服と黒い覆面で抵抗したこと、とされる。

東西冷戦が終わったあとの富裕層や金融資本によるグローバリゼーション、拝金・効率主義の支配、格差の拡大に対して、反グローバリゼーション、エコロジー、それから右翼の反移民に対抗する国際連帯意識が新しい左翼を形成した。

その中で、デモなどでは飽き足らない連中がそのスタイルを真似た。ブラック・ブロックは、昨年のハンブルグG20サミットはじめヨーロッパの各国、南北アメリカなど各地で出没しているが、共通した組織があるわけではない。

1960年代末に世界各地で起きた新左翼運動からはイタリアの「赤い旅団」や「ドイツ赤軍」、日本の「連合赤軍」などの武装テロ集団が生まれたが、「ブラック・ブロック」はそこまで過激ではない。彼らの武器はあくまでも火炎瓶などで銃や爆弾はもたない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中