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シリア内戦

トランプが命じたシリア「精密攻撃」の危うさ

2018年4月19日(木)15時00分
トム・オコナー

国防長官マティスの懸念

11年末、アメリカはイラク駐留部隊のほとんどを撤退させた。一方、CIAはこの頃、カタール、サウジアラビア、トルコの政府と共に、シリアの反政府勢力への資金援助を開始した。アサド政権が反政府勢力を抑え込むために、人権侵害を行っているというのが理由だ。

イラク・イスラム国は13年、混乱に乗じてシリアに勢力を拡大させ、ISISを名乗るようになった。翌年、ISISはイラクとシリアの半分を支配下に収め、内戦状態のリビアでも存在感を強めていった。

アサド政権は、ロシアとイランの支援により、これまでのところフセイン政権やカダフィ政権と同じ運命をたどらずに済んでいる。それでも、大統領府の防御体制を強化したり、政府軍の一部装備をロシア軍施設内に移したりしているという報道は、アサド政権がトランプの脅しを深刻な脅威と見なしていたことの表れと言えそうだ。

13日の空爆開始直前まで、シリアとロシアの両国政府は、軍事行動の可能性をちらつかせるトランプを牽制していた。

シリアのバシャル・ジャファリ国連大使は、「米英仏がわが国の国土を攻撃するなら、自衛のために戦うことを躊躇しない」と発言。ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使も、トランプがシリアへの攻撃を行えば、米ロ戦争の可能性を「排除できない」と述べていた。

対立がエスカレートすることへの懸念は、米政府内にもあった。ジェームズ・マティス米国防長官は12日、攻撃すれば、事態が「コントロール不能」になり、紛争が拡大する危険があることを認めている。

それでも、トランプはシリア空爆に踏み切った。それが「コントロール不能」な事態を生まないことを願うばかりだ。

本誌2018年4月24日号[最新号]掲載

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