最新記事

安倍晋三

あめとムチで権力掌握した安倍首相 次期政権の長期安定が困難な理由

2018年3月19日(月)14時31分

3月14日、自ら主導した変革によって官邸の力を高めてきた安倍晋三首相(写真)だが、政権の長期化を可能にした大きな要因は、強力な政治同盟と野党の貧弱さ、そして強運にある。東京で撮影(2018年 ロイター)

自ら主導した変革によって官邸の力を高めてきた安倍晋三首相だが、政権の長期化を可能にした大きな要因は、強力な政治同盟と野党の貧弱さ、そして強運にある。

このような「ハットトリック」を、後継となるポスト安倍が再現するのは困難かもしれない。

安倍首相(63)は、政権トップとして再登板した2012年12月以来、最も厳しい政治危機の最中にある。昭恵夫人と繋がりがあった学校法人「森友学園」に対する大阪府豊中市の国有地売却において、「身びいき」な対応を取ったのではないかと疑われている。

安倍首相は、自身や妻がこの土地売買に介入したことを否定している。だがこの疑惑により、今年9月に行われる自民党総裁選での3選が阻まれ、首相交代が予想より早く実現する可能性が浮上している。

同首相が実施した改革の1つが、2014年に行った内閣人事局の設置だ。これにより、安倍首相と側近の菅義偉官房長官は、数百に及ぶ省庁の幹部人事の決定権を手中に収め、霞が関の官僚機構をより強力に掌握することが可能となった。

これは、過去20年にわたり、官邸への権力集中を進めてきた中で最新の一手となった。

「安倍首相は、それ以前から始まっていた『誰が最終責任者か』を明確にするための改革の集大成だ。安倍氏の後は、どう制度が機能するかは属人的になるだろう」と、米コロンビア大のジェラルド・カーティス名誉教授は言う。

安倍首相と菅官房長官は、強化された影響力を巧みに行使した。例えば、内閣人事局が設置される以前にも、安倍首相は、自衛隊を巡る平和憲法による制限の緩和を目指すという、自身の考えに同調的な元外交官を、憲法解釈を担当する内閣のポストに起用していた。

安倍首相はまた、側近による強固なインナーサークルを作り上げている。これらの中には、2006─2007年の第1次安倍政権の失敗から学んだ者も多い。第1次安倍政権は、閣僚不祥事や、与党の過半数割れを起こした参院選、自らの健康問題などが原因で、安倍氏が唐突に首相の座を去る結果に終わった。

「信頼する友人で形成されたインサイダーグループが、極めて安定的に政権運営を担っている」と、エクィティファンドのウィズダムツリー・ジャパンのジェスパー・コール最高経営責任者(CEO)は指摘する。「極めて非日本的な形で、彼(安倍氏)は、権力を行使し、制度の枠組みを利用することを恐れていない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中