最新記事

健康

「体内時計ががん細胞の増殖を抑制する」との見解が明らかに

2017年12月21日(木)17時30分
松岡由希子

「体内時計ががん細胞の増殖を抑制する」という研究が発表された tolgart-iStock

私たち人間の身体には、約24時間周期で変化する「体内時計」が備わっており、睡眠や行動、代謝などのサイクルやパターンに影響を与えている。さらに、最近の研究結果によると、体内時計には、がん細胞の増殖を抑える作用も存在する可能性があるそうだ。

体内時計が腫瘍抑制としても機能する可能性がある

独シャリテ大学病院のアンジェラ・レロージョ博士を中心とする研究プロジェクトは、2017年12月、学術雑誌「プロス・バイオロジー」において、「代謝やDNA修復、細胞周期といった分子の時間依存性プロセスを体内時計が制御しているとすれば、これが腫瘍抑制としても機能する可能性がある」との研究論文を発表した。

通常、外界の明暗環境と同調して動いている私たちの体内時計は、がんなどの疾病によって乱されることがある。しかしながら、体内で細胞が増殖する際は、"細胞周期"(ひとつの細胞が二つの娘細胞を生み出す周期)と呼ばれる、体内時計とは異なるサイクルに従う仕組みとなっており、多くのがんは、この細胞周期を機能不全にさせたり、過活動にさせることで、腫瘍細胞を制御不能に増殖させている。

つまり、体内時計と細胞周期は、これらが結合することによって細胞の運命決定に影響を与えているという点で、重要な役割を担っているわけだ。

体内時計の乱れを、がんの兆候のひとつとして捉えるべきか

そこで、この研究プロジェクトでは、細胞周期を制御する「Rasタンパク質」と、がんを抑制する「INK4A」と「ARF」という2種類のタンパク質を摂動させたところ、体内時計と細胞周期とが相互に作用し合うことがわかった。

この研究結果によれば、「Rasタンパク質」が、生物に本来備わっている約24時間周期の概日リズムを制御するのみならず、「INK4A」や「ARF」を通じて体内時計にも影響を及ぼす一方で、体内時計が、細胞の運命を決定する調整因子として重要な役割を担い、がん予防のメカニズムとしての機能を有する可能性があるということになる。

この研究論文の筆頭著者であるレロージョ博士は、「この研究結果は、体内時計が腫瘍抑制として機能しうることを示すものであり、体内時計の乱れを、がんの兆候のひとつとして捉えるべきかもしれない」と考察。体内時計ががん治療に関連性を持つ可能性をふまえ、今後、従来のがん治療が見直されるかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

スイスが過剰規制ならUBSは国外撤退も、銀行協会が

ワールド

モスクワに過去最大の無人機攻撃、1人死亡 航空機の

ワールド

米でイスラム教徒差別など増、報告件数が過去最多=権

ビジネス

午後3時のドルは147円前半で売買交錯、一時5カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 2
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 3
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 4
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 5
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 6
    「中国の接触、米国の標的を避けたい」海運業界で「…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    「汚すぎる」...アカデミー賞の会場で「噛んでいたガ…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 8
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中