最新記事

香港

アグネス・チョウ独占インタビュー「日本の選挙に興味ある」

2017年11月13日(月)16時49分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

「日本のアイドル、有吉弘行、はじめしゃちょー」が好きだという「香港衆志」(デモシスト)の中心メンバー、周庭(写真提供:周庭)

<香港政治に対する世界の関心が薄れるなかで、中国政府が学生運動リーダーたちに大々的な攻勢を掛けている。現在の状況について、政党「香港衆志」(デモシスト)で日本語広報を担う周庭に話を聞いた>

香港の「雨傘運動」を覚えているだろうか? 2014年秋に起きた、学生を中心とした路上占拠運動だ。

そのスローガンは「本当の選挙が欲しい」。1997年の香港返還当時、中国政府は将来的に香港特別行政区のトップである行政長官選挙で普通選挙を導入すると約束していた。しかし普通の選挙では意に沿わぬ人物が当選する可能性が高い。そこで立候補する時点で親中派しか立候補できないような仕組みを組み入れた上での普通選挙を提案し、若者たちが強く反発したのだった。

世界の注目を集めた大事件から3年が過ぎた。今や香港の政治問題がニュースのトップを飾ることはない。だが注目が薄れた今、中国政府は大々的な攻勢を掛けている。今年8月、雨傘運動の元学生リーダーである黄之鋒(ジョシュア・ウォン)、羅冠聡(ネイサン・ロー)、周永康(アレックス・チョウ)に実刑判決が下された。

雨傘運動初期の「公民広場」占拠が「違法集会への参加」の罪に問われたのだ。昨年8月の一審判決ではボランティア活動を義務付ける社会奉仕を命じる判決にとどまったが、検察は量刑を不服として上訴。懲役刑に追い込んだ。

中国には「秋後算帳」という言葉がある。元々の意味は「収穫後に清算する」という農業関連の言葉だが、今では「ほとぼりが冷めた頃に報復する」という中国共産党の姿勢を表現する言葉として使われている。国際社会の注目が失われた今、中国共産党は香港に対する弾圧を強めているのではないか。

実情を知るべく、黄之鋒、羅冠聡が所属する政党「香港衆志」(デモシスト)で日本語広報を担う周庭(アグネス・チョウ)に話を聞いた。アニメ『きらりん☆レボリューション』で日本文化にはまったという周は、独学で政党広報を務められるほどの日本語を身に付けている。中国本土で使われる普通話よりも日本語のほうが得意だという。

日本文化について聞くと、「アイドルDD(誰でも大好き)、芸能人では有吉弘行、ユーチューバーでははじめしゃちょーが好きです」「今年のモーニング娘。香港コンサートに行きました! 生歌サイコー」とオタク気質全開だが、香港の現状について質問すると表情を一変させた。

――黄之鋒、羅冠聡、周永康が懲役刑を受けた。意外な判決だったのでは?

判決の前日、別のデモシスト・メンバーも懲役刑の判決を下されました。懲役13カ月という重い罪でいまだに刑務所にいます(黄、羅は10月24日に、周は11月7日に保釈された。1月に上訴審があり、控訴が棄却されると再び収監される)。その判決があったので、ある意味で覚悟はできていました。

――羅は昨秋の選挙で立法会議員に当選したが、今年7月、就任宣誓を誠実に行わなかったとの理由で議員資格が取り消された。資格を取り消された議員は選挙以来計6人に上る。懲役判決と合わせ、香港の法治が大きく揺れているという印象を受けた。

政治的介入というのであれば、懲役刑に関しては上訴したことが最大の問題です。社会奉仕という一審判決が下ったにもかかわらず、量刑が不当だとして上訴したことは大きな驚きでした。政治的な動機がなければあり得ないことだったと思います。

議員資格取り消しに関しては、まず前提として中国の全国人民代表大会が香港特別行政区基本法の解釈権を持っていることが問題です。彼らが解釈を変更すれば、香港の裁判官も受け入れざるを得ない。香港の司法ではなく、香港政府、中国政府の問題です。

(*2016年11月7日、全国人民代表大会常務委員会は香港特別行政区基本法に関する新たな解釈を決議。公職者は就任にあたり、誠実かつ厳然とした態度で決められた文言どおりに宣誓を行うことを義務付け、違反した場合は公職資格を失うと決めた。羅らの宣誓が行われたのは10月だったが、この解釈が根拠となって議員6人が失職した)

【参考記事】「雨傘」を吹き飛ばした中国共産党の計算高さ

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中