最新記事

スペイン

混迷カタルーニャの歴史と未来を読み解く

2017年10月17日(火)17時00分
アイザック・チョティナー(スレート誌記者)

住民投票が終わった夜、中央政府のラホイ首相は投票は無効だと改めて強調した Angel Navarrete-Bloomberg/GETTY IMAGES

<独立を問う住民投票を終えて全く見えない次の展開。歴史を見つめ直し、将来を占ってみると――>

スペインのカタルーニャ自治州で10月1日、独立の是非を問う住民投票が行われた。治安部隊が投票を阻止しようと介入し、800人以上が負傷。投票できなかった市民も多かった。

しかし投票した市民のうち約9割が独立を支持したと、少なくともカタルーニャ側は発表している。中央政府とカタルーニャの対立がどう展開するかは見えないが、危機が収まる気配は全くない。

なぜ事態がここまでこじれたのか。オバリン大学(米オハイオ州)の教授(ヒスパニック研究)で、近く『スペイン内戦の記憶の戦い──歴史・フィクション・写真』を出版するセバスチャン・フェーバーに、アイザック・チョティナーが見通しを聞いた。

◇ ◇ ◇


――独立を求めるカタルーニャの強い思いを理解できない人は多いだろう。その思いをどう解説するか。

その点については、長期的な視点と短期的な視点の両方から説明できる。

長期的な視点のほうから話すと、スペインは15世紀に1つの国家の形になったが、ずっと多民族国家だった。自分たちを「スペイン人」より、カタルーニャ人、バスク人、ガリシア人などと自任するいくつものコミュニティーで構成され、それが今も残っている。

19世紀後半には、そうした意識が再び高まった。スペインが共和国になった1930年代には、その感情がある種の自治への願望として政治的に表出し、ガリシア、バスク、カタルーニャは自治州という特別な地位を獲得した。

しかし後のフランコ独裁政権(1939~75年)の下で、そうした願望は厳しく抑圧された。子供にバスクやガリシア、カタルーニャ語風の名前を付けることが禁じられ、自治州を国家のごとく表現することはことごとく禁止された。

フランコが死去し、70年代後半にスペインが民主国家になると、多民族のアイデンティティーをどうするかという問題が浮上した。その解決策とされたのが、バスクやカタルーニャなど17の自治州を持つ準連邦国家という形を取ることだった。その結果カタルーニャの住民は長年、自分たちは言葉も文化もスペインとは違うと考えてきた。

――その思いが過去数年でここまで大きくなった理由は?

ここで短期的な視点からの解説になるが、つまりスペインの保守派の政治家や政党が「多民族」というこの国の本質を完全には受け入れなかったからだ。スペインを「誇り高く統一された均質の国」だとするフランコ的な見方から脱却し切れていないためだろう。

カタルーニャ州は06年に自治憲章を改定した。注目されたのはスペイン憲法で「民族体」とされているカタルーニャを、新たな自治憲章が「ネーション(国家)」と称したこと。ある種の格上げだ。

スペインの保守派政党は、憲法裁判所に異議申し立てを行った。憲法裁は10年、新たな自治憲章の重要な部分を違憲と判断した。カタルーニャの多くの人はこれを、中央政府には自分たちのアイデンティティーを尊重する意思はないという新たな証拠であり、侮辱と受け止めた。

カタルーニャのアイデンティティーには、富の分配の問題が絡む。自治州政府の税収に対する管理権限と、中央政府がどう国内の各地方に資金を配分するかという問題だ。

カタルーニャのように相対的に裕福な地方は、国庫に納める金額のほうが交付される金額よりも大きくなる。経済危機の直後の10年には、経済的に不利な立場に置かれているという思いが強まった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米のキューバ収容施設、収容者15人に バイデン氏は

ワールド

安心して投資できる重要性、米新政権に伝える=日鉄提

ワールド

トランプ氏の機密文書持ち出し、担当した主任検察官が

ワールド

米大統領夫妻、ニューオーリンズの車突入現場を訪問
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国の宇宙軍拡
特集:中国の宇宙軍拡
2025年1月14日号(1/ 7発売)

軍事・民間で宇宙覇権を狙う習近平政権。その静かな第一歩が南米チリから始まった

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流行の懸念
  • 2
    「日本製鉄のUSスチール買収は脱炭素に逆行」買収阻止を喜ぶ環境専門家たちの声
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    空腹も運転免許も恋愛も別々...結合双生児の姉妹が公…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 7
    ウクライナ水上ドローンが「史上初」の攻撃成功...海…
  • 8
    ウクライナの「禁じ手」の行方は?
  • 9
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 10
    プーチンの後退は欧州の勝利にあらず
  • 1
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 2
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流行の懸念
  • 3
    カヤックの下にうごめく「謎の影」...釣り人を恐怖に突き落とした「超危険生物」との大接近にネット震撼
  • 4
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 5
    早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを…
  • 6
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 7
    青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡…
  • 8
    「これが育児のリアル」疲労困憊の新米ママが見せた…
  • 9
    イースター島で見つかった1億6500万年前の「タイムカ…
  • 10
    「日本製鉄のUSスチール買収は脱炭素に逆行」買収阻…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 8
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中