最新記事

ロシア政治

ロシアにおける「ロシア・ゲート」疑惑──戦略的思考か?疑惑の矮小化か?

2017年7月14日(金)17時00分
溝口修平(中京大学国際教養学部准教授)

G20会議のプーチン大統領とラブロフ外相 Alexander Zemlianichenko-REUTERS

<初の米ロ首脳会談をロシア側はどう捉えたのか。大局的な観点からの米ロ関係の展望に関するコメントが目立つが、これは「ロシア・ゲート」疑惑を矮小化したいというロシアの考え方を表してもいる...>

7月7日、G20会議の行われたハンブルグで、米国のトランプ大統領とロシアのプーチン大統領が初めて会談した。当初30分程度とされていた会談は、予定を大幅に超過して2時間15分続き、シリア、ウクライナ、朝鮮半島情勢、サイバーセキュリティ問題などが議論された。

日本や米国メディアの最大の関心事は、昨年の米国大統領選挙に対するロシアの「介入」疑惑についてであった。すでに様々なところで報じられているように、この問題について、トランプは数度にわたりプーチンにロシアの「介入」があったのかを問いただし、プーチンがそれを否定するというやり取りがあった。両国の公式発表には微妙な温度差があるが、ロシアのラブロフ外相によれば、プーチンはトランプに対して、もし介入があったと主張するのであれば、その証拠を提示するよう求めた。そして、トランプはプーチンの説明を「受け入れた。」

【参考記事】初顔合わせの米ロ首脳会談、結果はプーチンの圧勝

ロシアではどのように受け止められたのか

2014年3月にロシアがクリミアを併合して以来続く米ロの対立は、当初トランプの大統領就任によって改善することが期待されていた。しかし、その後両者が米ロ関係の現状を「冷戦終結以降最悪」だと評価するなど、その関係は冷え込んだままである。加えて、米国では、大統領選挙期間中のトランプ陣営とロシアとの繋がりに関する疑惑(「ロシア・ゲート」疑惑)が、依然としてトランプ政権を揺るがし続けている。それでは、今回の首脳会談は、ロシアではどのように受け止められただろうか。

ロシアの政府や議会関係者は、今回の会談によって米ロ関係の改善が期待されるという考えを次々と発表した。タス通信は、「大きな前進」(クリンツェヴィチ上院防衛・安全保障第一副委員長)、米ロ関係の「突破口」(コサチェフ上院国際問題委員長)、「米ロ関係の悪化を止めるプロセスの開始」(スルツキー下院国際問題委員長)といった議会関係者の談話を報じている

このような高い評価の根拠となっているのは、シリア南西部での部分的停戦について、そしてウクライナ問題を話し合う米ロ間のチャネルを設置することについて両者が合意したためである。

この成果を、本当に「国際社会の安定に寄与する」ものと評価しているのか、それとも、米国がロシアを対等なパートナーとして認めたという満足感なのか、もしくは、その両方なのか。そこには、ロシア国内でも見解の相違がある。ただし、ロシア側の反応は、総じて米ロ関係の改善を期待できるものとして、会談の成果を肯定的に捉えている。

別の見方をすれば、「ロシア・ゲート」問題については、彼らはほとんど言及していない。ラブロフ外相の記者会見でも、サイバーセキュリティ問題の一環として、冒頭に記したプーチンとトランプのやり取りが簡単に紹介されたが、この疑惑は「証拠が示されていない」という留保が付けられた。

その後、やり取りの詳細を問う記者の質問に対しても、ラブロフは「その問題はすでに述べた」とにべもない回答をしている。ロシア側のコメントは、米ロ関係の大局的な変化の可能性に関するものが中心であり、「ロシア・ゲート」疑惑は、あくまでサイバーセキュリティ問題の一部という位置付けである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中