最新記事

いとうせいこう『国境なき医師団』を見に行く(ウガンダ編)

風呂に入れさせてもらえないか──ウガンダの難民キャンプで

2017年7月4日(火)17時30分
いとうせいこう

あの福島と書かれたトラックが忘れられない。スマホ撮影。

<「国境なき医師団」(MSF)を取材する いとうせいこうさんは、ハイチ、ギリシャ、マニラで現場の声を聞き、今度はウガンダを訪れた>

これまでの記事:「いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く

まえがき

この連載でいつも使っているのがカタール航空だし、俺が気にし続けている男もまたその機内に最初現れたのだった。

それがカタール自体、アラブ諸国の中での孤立を突如深め、今ではアラビア半島の上を一列にしか飛べないありさまだ。

ここ数日のことである。

どんどん世界が変わっていってしまう。

緊張の方向へと。

その中で、彼はどこから俺を見ているというのだろうか。

遠きインベピ

インベピ・キャンプはまだ新しく、いかにも建造されつつある難民居住区で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と印刷された銀色の遮光防水シートで出来た四角いテントがあちこちにぽつぽつと立ち、ある場所は金網で仕切られていて上に鉄条網が張り巡らされていた。

水を運ぶタンク車がその金網の向こうに止まり、イギリスの貧困克服援助団体OXFAMのビブスを付けた人が行き交っていると思えば、セーブ・ザ・チルドレンがテントを構え、その間を多くの難民らしき人々が、特に女性であればほぼ必ず頭に水の入ったポリタンクなど乗せて歩いている。

国連(UN)を中心として、複数の人道団体がそれぞれの支援を進めているのだ。広大なビディビディ・キャンプでさえさばききれない数の難民が移動してきているからである。

「ニイハオ!」

という声が俺たちの車にかかった。

「ノー、ジャパニーズ! コンニチワ!」

広報の谷口さんは返し、手を振る。

金網の向こうに南スーダンから来たのだろう、若いアフリカ人たちがいる。近郊のダムでは中国資本で大工事が行われていが、南スーダンの方でもやはり中国資本の大規模インフラ整備が行われているとのことだった。

周囲にはいつの間にか、さっきまであれほどあふれていた緑がなくなり、木々があっても葉が枯れているケースが多くなっていた。谷口さんがのちに教えてくれたところによると、ウガンダも北に行くにつれて枯れ木が多くなり、さらに南スーダンに入ればもっと土が乾くのだという。

砂煙の舞うインベピ・キャンプは、俺には突如あらわれた荒涼とした西部劇の町のように見えた。やがてボサの運転する車はそこが目的地でなかったとわかって元来た道を引き返したが、だからといって標識などひとつもなく、ただ枯れ草の間をすかし見ながら進む以外ない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中