最新記事

サイエンス

シャチがホホジロザメを餌にし始めた

2017年5月11日(木)18時30分
ダグラス・メイン

南アフリカでは、檻に入ってホホジロザメを見るケージ・ダイビングも盛ん Ho New-REUTERS

<映画『ジョーズ』のモデルになったホホジロザメを、シャチが捕食しているらしいことがわかった。それも海岸に打ち上げられた死体からはある臓器だけがきれいにえぐり取られている>

スティーブン・スピルバーグ監督の映画『ジョーズ』で世界中を震え上がらせたホホジロザメ。海の食物連鎖の頂点に位置するこのサメも、怖いものなしとはいかないようだ。

南アフリカの沿岸部でここ1週間にホホジロザメ3頭の死体が立て続けに見つかり、地元の人々に衝撃を与えている。死体はいずれも肝臓をきれいに噛み取られており、研究者らは「キラー・ホエール」の異名をとるシャチの仕業とみている。

【参考記事】ラットの頭部移植に成功 年末には人間で?

ホホジロザメがシャチに襲われたケースは少数あるが、この海域では初めて。シャチは獲物を選ばない恐るべき捕食者で、様々な種類のサメ、アザラシ、クジラを食べる。しかし、逆襲に遭う恐れのあるホホジロザメには通常、近づかなかった。

ホホジロザメが悲劇にあったのは、南ア南西部・西ケープ州の小さな港町クレインバイ沖。5月3日以降、海岸に3頭の死体が相次いで打ち上げられた。この地域は檻の中からホホジロザメを間近で見るケージダイビングの世界的なメッカとして知られるが、ホホジロザメの死体が海岸に打ち上げられることはめったになく、これまでの5年間に4頭の死体が発見されただけだ。

今回、新たに見つかった3頭を解剖して調べた結果、シャチに殺された可能性が高いことが分かった。3頭とも肝臓を噛み取られており、1頭は心臓もなかった。サメの肝臓には、ステロイドなどのホルモンの分泌を促す油性物質スクワレンが豊富に含まれている。


【参考記事】マラソンでランナーの腎臓が壊される

サメを気絶させて襲う

「研究者は皆、沈痛な思いだった」と、解剖を率いたホホジロザメの専門家アリソン・タウナーはブログで述べている。「自然は残酷だ。スクワレン豊富な肝臓だけを外科医のように切り取って、残りは打ち捨てるシャチの抜け目なさを思うと、ショックで声も出なかった」

シャチは高い知能の持ち主だ。世界中で海域ごとに異なる獲物に合わせた狩りの方法を編み出しており、ホホジロザメの襲撃方法を新たに学習した可能性もある。

アメリカでは97年、サンフランシスコ沖のファロン諸島近くでホエールウォッチング中の観光客がホホジロザメを襲うシャチを目撃。その後の調査で、シャチの驚くべき狩りの方法も分かってきている。

シャチはまずサメに体当たりし、サメの体をひっくり返す。多くのサメは、体をひっくり返されると瞬間的に意識を失い、無防備になる。

バハマのビミニ島に研究拠点を置くサミュエル・グリューバーによると、「シャチの学習能力は驚くほど高く」、1頭のシャチがたまたまサメに激突し、サメがひっくり返って動かなくなったら、「それを仲間に教えることも考えられる」という。

シャチの頭脳戦にはジョーズもお手上げだろう。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米副大統領、トランプ氏を擁護 プーチン氏との会談巡

ワールド

ゼレンスキー氏、米特使と会談 投資と安保「迅速な合

ワールド

トランプ氏のガザ構想は「新機軸」、住民追放意図せず

ビジネス

トランプ関税巡る市場の懸念後退 猶予期間設定で発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中