最新記事

英王室

ヘンリー王子が心の問題を告白 その背景にあるものとは

2017年4月24日(月)15時45分
松丸さとみ

一方、テレビ局ITVの報道によると、慈善団体が家庭医と協力して行なった調査から、イングランド北部では成人の27%が、住宅難から精神的に追い詰められ、心の健康を損なっていることが分かったという。住宅難が原因でストレス、不安、気分の落ち込みなどを経験し、なかには自殺が頭をよぎる人もいるという。

このように心の健康を危ぶむ人が多くいるなか、その受け皿となる施設がきちんと機能できていないという問題もある。

心の問題を扱う受け皿不足

政府の監視機関である警察監察局は、毎年実施している警察活動に関する調査の中で、心の病に対してしかるべき機関が対応できていないため、警察が初動対応せざるをえない状況が多いと報告している。

報告書は「予防は治療に勝る」ということわざを挙げ、本来、うつやその他の心の問題から人が自殺を考えたり危険な行動に出たりする状況になる前に、介入することが大切であると指摘。しかし心の健康を扱う設備の不足により、結局は何かが起きてから警察が対応せざるを得ない状況になっていると説明している。

また、テリーザ・メイ首相は今年1月9日、国民の4人に1人が人生で一度は心の病を抱えるとし、学校や職場、コミュニティで心の健康に関する支援を強化する方針を発表していた。国営医療制度(NHS)に対し2020年までに年間100億ポンドを追加で投じるとメイ首相は主張していたが、NHSのスティーブンス最高経営責任者が「2018/19年のNHS支出は、イングランドの住民1人当たりで計算すると実質的には減額になる」と指摘し、同月下旬、大臣らがそれを認めたとインディペンデントが報じていた

王子がダイアナ妃から学んだこと

英国王室は、「君臨すれども統治せず」の原則から、政治に口出しはできない。しかしハリー王子は、英国の心の問題を取り巻くこうした厳しい環境に、自らの苦しかった日々を重ね合わせ、王室ができる最も効果的な活動である「知名度を利用した慈善活動」を決意したのだろう。

単なる知名度の活用のみならず、王子が王室のタブーを打ち破り心の問題を赤裸々に告白したことで、世界中が王子の訴えに耳を傾けた。12歳の時に母親を亡くしたかつての少年は、時には政治的介入だと批判されながらも人道的見地から慈善活動に勤しんだ母親の背中から学んだことを、しっかりと実践しているようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中