最新記事

北朝鮮

米中会談、アメリカの目的は中国の北朝鮮「裏の支援」断ち切り

2017年4月6日(木)06時56分
譚璐美(作家、慶應義塾大学文学部訪問教授)

「裏の支援」を行う金融機関は多数ある

問題は、中国の「裏の支援」を行う金融機関が光鮮銀行以外にも、多数あるという点だ。博訊ネット(2017年4月4日付)によれば、国連安保理のプロジェクトチームが2月27日に発表した研究報告では、国連が北朝鮮に対する制裁を強化した後も、北朝鮮の金融機関は依然として国際金融システムの中で非合法な銀行業務を展開し、その多くが中国との金融取引であるという。

例をあげれば、平譲にある国際武道銀行は人民元の決済銀行として、人民元建て預金口座と融資、送金業務を行っている。同じく平譲にある国際連合銀行(The International Consortium Bank)はマレーシア企業とパートナーシップを組むグループ企業だが、北朝鮮の中央銀行から営業許可を受けて、外貨取引と企業融資を実施し、顧客数は世界に5200万人いるとされる。

北朝鮮の羅先経済特別区に開設された中華商業銀行は、2013年に中国の大連市のグループ企業との間で設立された合弁銀行で、中国と北朝鮮の貿易取引の融資を行い、役員会主席は中国丹東市の金取引所の事務所主任が兼務。中国の内モンゴルの国際貿易有限公司との合弁でできた華麗国際商業銀行はロシアと内モンゴルのレアメタル取引と融資を実施。また香港の旺福特有限公司が延辺に設立した東大銀行は、預金内容を中国政府にも北朝鮮にも報告義務がない完全な独立銀行である。

その一方、北朝鮮独自の銀行は光鮮銀行以外にも、大同信託銀行、大成銀行、東方銀行の3行が中国の丹東、大連と瀋陽に事務所をもち、米国から危険人物として名指しされている金哲三(Kim Chol Sam)が2006年から大連事務所の所長に就任。登記上は別会社だが、登記上の責任者で名前が酷似した金鉄三名義で、大量のドル送金や百万ドル単位の現金取引を行っているほか、彼が北京に開設した柳京商業銀行の顧客リストの中には、北朝鮮の武器商人も含まれている。

これらの金融機関の多くは平譲と北京に本支店を開設し、核開発やミサイル製造のための部品輸入やマネーロンダリングを行っているとみられ、ニューヨークにも銀行口座がある。

米中首脳会談では、おそらくトランプ大統領は習近平主席に対して、韓国への高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備を巡る米中間の緊張緩和と引き換えに、こうした北朝鮮への「裏の支援」を断ち切るよう強く迫るはずである。あるいは世界貿易機関(WTO)協定上の「市場経済国」として認定するかわりに条件交渉をするかもしれない。

もし中国による北朝鮮への「裏の支援」を断ち切ることができれば、アメリカは北朝鮮の核の脅威に対して有効な手段を得たことになり、米中首脳会談の真の「成果」のひとつとなる。米中両国の貿易不均衡という目に見える交渉事の一方、水面下でそうした交渉と妥協策も同時に進行するにちがいない。

【参考記事】中国、絶体絶命か?――米議会までが中国に北への圧力強化を要求
【参考記事】サイバー銀行強盗の背後に北朝鮮が

[執筆者]
譚璐美(タン・ロミ)
作家、慶應義塾大学文学部訪問教授。東京生まれ、慶應義塾大学卒業、ニューヨーク在住。日中近代史を主なテーマに、国際政治、経済、文化など幅広く執筆。著書に『中国共産党を作った13人』、『日中百年の群像 革命いまだ成らず』(ともに新潮社)、『中国共産党 葬られた歴史』(文春新書)、『江青に妬まれた女――ファーストレディ王光美の人生』(NHK出版)、『ザッツ・ア・グッド・クエッション!――日米中、笑う経済最前線』(日本経済新聞社)、その他多数。新著は『帝都東京を中国革命で歩く』(白水社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週間ぶり安値、米雇用統計受

ビジネス

米国株式市場=急上昇、利下げ観測の強まりで アップ

ビジネス

米ISM非製造業総合指数、4月は49.4 1年4カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中