最新記事

北朝鮮

金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係者を直撃取材

2017年2月20日(月)07時36分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

毒殺された金正男(写真は2001年日本への不正入国時) Eriko Sugita-REUTERS

習近平政権誕生以来、中朝関係が冷え切っている中、中国はなぜ金正男氏を保護してきたのか、殺害は今後の中朝関係に影響するかなど、日本人が抱く疑問をぶつけた。回答から東北アジア情勢と課題が見えてくる。

中国政府メディアの報道の仕方

中国の中央テレビ局CCTV系列は、金正男(キム・ジョンナム)氏が2月13日にマレーシアのクアラルンプール国際空港で毒殺されたことに関する報道で、2月16日昼のニュースの時点でもなお、「金という姓の韓国籍男性」が殺害されたという形での報道しかしていなかった。

これに関して、日本の多くのメディアが「中国が困惑している証拠」という主旨の報道をしていたので、先ずは中国政府関係者に「名前を完全な形で明示しない真意は何か」を聞いてみた(16日午後2時)。

以下すべて、「あくまでも個人の意見だが」という前提で答えてくれた。

「CCTVは最も権威あるテレビ局なので、責任ある報道しかすることができない。絶対に確実だと公式に確認されるまでは、"金正男"というフルネームを言うことはできない。パスポートが偽造でないかなど、まだ確認されていない」とのこと。

特に北朝鮮の場合、偽造パスポートで海外渡航しているケースが多いのも事実。その後、マレーシア政府がパスポートやDNA鑑定により「まちがいなく金正男だ」と公表すると、CCTVもまた「金正男が何者かによって殺害された」と実名で伝えるようになった。ということは今も評論が全くないのは、指示を出したのが北朝鮮か否かが判明していないからか。それにしても報道が静かすぎる。

中国はなぜ金正男氏を保護していたのか?

金正男は北京にいたこともあるが、長いことマカオに住んでいた。北朝鮮の朝鮮労働党の金正恩(キム・ジョンウン)委員長の異母兄で、金正日(キム・ジョンイル)元総書記の長男だ。中国は金正男の身辺保護をしてきたのは確かだ。その理由はなぜかを聞いた。

すると中国政府関係者は意外な事実を教えてくれた。

「金正男がマカオに住み始めたのは、まだ金正日が生きていたときだ。金正男はかつて後継者の候補にも挙がったことがあったが、偽造パスポートで(ディスニーランド観光のために)日本に入国しようとして北京に強制送還されたあたりから状況が変わってきた。金正男本人は北の指導者になる気持ちは全くなかったが、後継者争いで暗殺される危険性があった。金正日は中国政府に金正男の身の安全を確保してくれと頼んできたことさえあると、私は聞いている。中国と朝鮮の間には同盟があるから、中国で守ってあげるというのは当然のことだ。道義的な問題にすぎない」

ボディガードは付けていたのか?

ボディガードを付けていたのか否かを聞いた。

「ボディガードには二種類ある。一つは彼自身が個人的に雇用していたボディガードと、中国の(彼が住んでいた)地域(北京とかマカオとか)の公安関係者がボディガードとして付いている場合とがある。但し、中国の公安関係は、あくまでも彼が中国の国土上にいたときに責任を果たしてあげるだけで、マレーシアであれシンガポールであれ、彼が中国の国土から離れて第三国に行ったときには、中国とは完全に関係なくなる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

習中国主席、フランス・セルビア・ハンガリー訪問 5

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中