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北朝鮮

金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係者を直撃取材

2017年2月20日(月)07時36分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

日本のメディアの中には、「これまでは海外でも中国のボディガードが付いていたのに、今回はいなかった」と報道しているケースがある。そこで「海外に出る場合にも、かつてはボディガードを付けたことがあるか否か」と聞いてみた。

「ない!未だかつて、一度もない!そんなことを言う人は、法律を知らない人たちだ。中国の公安がピストルを持って第三国に入り、特定の個人を守るなどということが許されるかどうか、考えてみるといい。金正男個人が雇ったボディガードなら別だが、中国が国家として動くはずがないだろう。そもそも彼は、あちこちに愛人がいたりビジネスもやっていて、そのためにあちこち動いている。そんなことに国家がつきあうはずがないし、義務もない」

中国で亡命政権を創ろうという計画はあったのか?

日本のメディアでは、金正男を担ぎ出して、中国あるいは韓国などで亡命政権を創ろうとしているといった話もあるが、そもそも金正男氏は「世襲制度」を批判していたし、また中国では、「中国は建国以来、世襲制をとったことがない。中国を独裁国家と海外メディアは批判するが、北と比べればずっと進歩している」と、「独裁度」を比較して北朝鮮を批判してきた。

したがって金正男を担ぎ出して、金正恩の首を挿げ替えようというような発想は、中国にはあり得ないと筆者は思っている。しかし日本人の疑問を払拭するため「亡命政権樹立計画」があったか否か、念のため聞いてみた。

やはり、中国政府関係者は「絶対にない!」と語気を荒げて続けた。

「金正男は善人ではあるが、そもそもリーダーになる器ではない!また彼自身、自由に暮らしたいという気持ちを優先していて、北朝鮮のリーダーになろうという野心など全くなかった。そのような力も彼にはない。特に、叔父の張成沢(チャン・ソンテク)が公開処刑された後は、金正男の力は完全になくなっていた。張成沢は中朝友好を重んじた人物で、北朝鮮でも改革開放を進めるべきだという考え方を持っていた。その意味では金正男と考えが近く、金正男を支えていたと思う。キーパーソンは、あくまでも張成沢だ。彼が処刑されたことで、もう中朝の友好関係は終わっている。修復は困難だ」

なお、脱北者たちが中国以外の国で亡命政権を樹立しようとしていることに関しては、「中国とは関係のないことなので関知しないが、少なくとも金正男は世襲制を強く批判していたし、そうでなくとも暗殺を恐れていたので、政治に関わることによって暗殺の可能性を高めるようなことには、絶対に賛同しなかっただろう」と、中国政府関係者は付け加えた。

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